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My important place【D.Gray-man】

第44章 水魚の詩(うた)



ずっと抱えていたもんは亡き両親だと言っていた。
それだけが雪の心を支えていたんなら、現実にこいつに寄り添ってくれていた者はいない。

過去なんて今更悔やんでもどうにもならない。
そんなことわかり切ってるのに、雪のこととなるとどうしても悔いる自分がいる。

昔の雪が在って、今の雪がいる。
そんな当たり前のこと、わかり切ってるのに───



「……綺麗だ」

「…ぇ…?」



その時、こうして声を掛けられたならと。
自分でも呆れるくらい、浅はかな願望だ。



「さっきの涙と同じだ。無駄なもんなんて一つもない。…綺麗だな、お前の体」



実験の傷跡を指先で撫でて笑いかける。

今更、過去を振り返ってその時の雪の心をほじくり返して、包み込んでやれるような言葉は俺は思い付けない。
適切な声掛けや行動なんてわからない。
だから、今の俺が今の雪にできることをしてやりたいと思った。

今はこうして俺の腕の中にいる。
触れられる。
声が届く。
表情で伝えることもできる。

本音をそのまま言葉に変えて、感情のままに音で伝える。
この目も口も手も、雪の為に在りたいと俺なりの形で寄り添った。



「…っ」



返ってきたのは、返事じゃなかった。
今までも何度か見たことがある。
泣きそうな一歩手前のくしゃり顔。

過去の雪に俺で言うアルマのような存在はいたのか。
わからないが、今は俺が傍にいる。
体だけじゃなく心で傍にいたいから。

だから気付けよ。
お前はもう"独り"じゃないんだってこと。



泣き出しそうな目尻に口付けを一つ。
声無き応えのように、俺の服を握ってくる小さな仕草が愛しくて。











この世に一つしかないこの体を、全部俺のものにしたいと思った。

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