• テキストサイズ

My important place【D.Gray-man】

第44章 水魚の詩(うた)



"あの時、気付けていたら"

そう後悔の念に苛まれていた心が晴れていく。



「こうして今は檻の中にいる身だけど…こうして、大切にしたい人が傍にいて。こうして、また笑えてるなら。…まだ私は、前を向いていられる」



雪のたった一つの笑顔と、裏のない言葉だけで。
どんよりと心を覆っていた分厚い雨雲のような腐蝕を、一掃していく。



「……お前って、」



嗚呼、本当に。



「やっぱり馬鹿だ」



凄ぇな。



「馬鹿なくらい真っ直ぐで、まっさらで。到底真似できそうにねぇよ」



抱き締めるように胸元で俺の手を包んでいた雪の手を、逆に握り返した。

愛に飢えて求めた教団で、待っていたのはその体を利用するだけの実験。
それでも家族の死を受け入れて教団で立ち続けて、俺のお陰で進むことができたと雪は言った。
こうして教団に鎖に繋がれる身に陥っても尚、更に前を向こうとしている。

他人色に染まることのない、まっさらな想いを抱いて、俺との未来を願ってくれている。
真っ直ぐに生きることを貫こうとしている。

…綺麗だと思った。

上手く言葉で表せない。
でも確かに綺麗だと思ったんだ。

パリ警察署の独房で、自分自身の思いを語った雪。
その時こいつは、自分の想いは綺麗なもんじゃないと卑下していた。
あの時の俺も、別にそれを否定する気はなかった。
けれど今確かに、その真っ直ぐでまっさらな想いが、とてつもなく綺麗なもんに見えたんだ。

俺にはきっと到底抱けない。
俺には到底持てないもんだ。



「…それって、貶してるの?」



少し不安げに問いかけてくる雪に、自然と口元は緩んでいた。



「違ぇよ。馬鹿」



手放しに褒めんのは、なんか違う気がするけど。
でも純粋に凄いと思った。
エクソシストもノアも第二使徒も人間も関係なく、俺なんかじゃ到底こいつには敵わない気がした。

/ 2655ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp