My important place【D.Gray-man】
第44章 水魚の詩(うた)
「ん、ユ…っな、にっ?」
今度は軽いリップ音を立てて、何度も口付ける。
啄ばむような戯れのキス。
「キスの約束」
唇が離れる合間にそう告げれば、約束を思い出したんだろう。困惑気味に抵抗していた動きが止まった。
…つか、自分からキスをせがんだだろーが。
忘れんなよ。
「させたのは雪だろ」
「…ん、」
言えば、受け入れるように雪は大人しく目を瞑った。
そこへ角度を変えて唇を覆う。
柔らかい雪の唇の感触を味わうように、上唇を挟んではやわく食んで、下唇を舐めては啄ばむ。
唇への愛撫を続けていれば、やがて雪の眼が涙とは違うもので潤みだした。
そんな雪の些細な変化に、俺の五感は敏感に察してスイッチが入りそうになる。
それを外身には出さないまま押しとどめた。
今此処で雪と唇を重ねているのは、約束の為だけじゃない。
だが体を貪る為でもない。
一目見て無残にさえ映る、この傷だらけの体を──
「っ?」
不意に胸に触れていた雪の手が、強く押し返してきた。
「っん…待って…っ」
「…んだよ、」
拒絶するような行為に、つい眉間に皺が寄る。
顔を離して見れば、動揺の見える目で俺を見ていた。
なんだ一体。
この状態で止める理由がわからない。
独房の中だ被疑者の身だとつまらないこと言いやがったら、耳は貸さないからな。
「ユウ、お酒臭い」
「……」
だがそこに返されたのは予想外の言葉。
あまりにまさかの、それも的を得た言葉で、俺の口はぴたりと動きを止めてしまった。
…酒って…テキーラか。
………そんなに臭うのかよ。