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My important place【D.Gray-man】

第44章 水魚の詩(うた)



 じーっと両の目で見上げてくる雪に、つい目を逸らす。
 …これじゃさっきと立場が逆だ。


「お酒飲んでたの?」

「……偶々だ」


 偶々、ではないが。
 それ以外に言い訳のしようがなくて、自分でも苦しいと思う言葉を返した。

 後先考えずに飲み続けてたからな…しまった。
 今更ながら酒に逃げたことを後悔。
 だがそんな俺に対して雪は口元を緩めると、くすりと小さな声で笑った。

 ……笑った?


「ユウってお酒飲むんだね。知らなかった」


 そう純粋に興味を持って問いかけてくる雪は、俺に対して不快な感情なんて向けていなかった。
 思わずまじまじと顔を見返してしまう。

 こいつ…怒ってないのか?
 俺が雪を放って酒飲んでたことに。


「…偶に」

「何飲んでたの? 結構匂うけど」

「…悪い」

「なんで謝るの。別に怒ってないよ」


 それでも兎が俺に不満を表したように、普通ならそこに良い感情は生まれないはずだ。
 そこを突っ込まれる前にと謝れば、すんなりと雪は首を横に振った。
 再びまじまじと雪の顔を凝視してしまう。

 …本当に怒ってない反応だ、これは。


「…テキーラ」


 それを悟ると、自然と素直な応えが口から出ていた。


「昔から、偶に飲んでた。ジェリーに貰って」


 雪が相手だったってこともあるだろう。
 これがティエドール元帥やマリや兎相手なら、話さない。
 こんな、聞かれていないことまで。


「好きなの? 洋酒」

「別に。それが一番早く酔いが回り易いだけだ」


 嘘は言ってない。
 でもまだ不思議そうにじっと見上げてくる暗くて大きな二つの目に、居心地は良くなくて目を逸らす。
 これ以上酒について話すことなんてない。
 それよりこいつの体を治す方が、先で──





『見せられる相手がいるなら、彼女には出してごらん。君程の心を溶かした相手だ。然るべき目で見て、応えてくれるはずだから』





 ふと頭を過ったのは、師の言葉だった。

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