My important place【D.Gray-man】
第42章 因果律
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数分前。
粉雪の降る白い空の下、孤児院の煉瓦の壁。
そこに屋上から吊るしたロープを掴んでしがみ付く、ジジの姿があった。
「こいつか」
色付き眼鏡の奥の目が、目的のものを見つけて細まる。
その目に映っているのは、煉瓦の壁に張り付いている小さな小さな赤と黒の斑点模様の昆虫、コシカル。
「同じ虫か?」
「ああ。この建物の四隅に一匹ずついるぜ」
屋上から顔だけ覗き問いかけてくるリーバーに、見上げてニッと笑ってみせる。
見た目は一見普通の昆虫に見えるが、羽を開いた腹には謎の文様。
鈍く微かな光を放っているところ、どうやらこの昆虫は孤児院の結界と関係しているらしい、とジジ達は踏んだ。
「恐らくこの結界の術者の媒体だな…。よし」
確信した顔で頷いたリーバーが、無線機を口元に寄せる。
「まずジジが一匹除去する。他は結界装置で対象を包囲しろ」
『はい!』
『了解』
『ま…待ってよ! 結界装置って、これどうやって作動するの!? 上手くできる自信ないわよアタシ! ねぇシェリー!』
「……さっき教えただろうが。そしてその呼び名はヤメロ」
昆虫型の媒体は全部で四匹。
孤児院の建物の四隅、離れた場所にバラバラに張り付いている。
合図を送る役目のリーバーは配置に付けない。
人数的に考えて、ボネールにも手伝ってもらうことになったが、微かな不安が残る。
無線機の向こう側から男の無駄に高い声をわんわん耳にしながら、リーバーは口元をヒクつかせた。
リーバーの科学班での専門は化学、数字、そして言語学。
様々な国の言葉を、当然話すことができるし理解もしている。
フランスでのシェリーとの愛称は、英語で言うダーリン・ハニーのようなもの。
全くもって面倒な相手を入団させてしまったものだと、教団内で更に無駄な苦労が増える予感にリーバーは脱力した。