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My important place【D.Gray-man】

第42章 因果律



 〝偽物〟

 それは第二使徒としてエクソシストへの道を強制させられ、自分の命も体も存在そのものが偽りでできていたと悟った、幼き日と同じものだった。

 聖戦の為に死んだ体は無理矢理新しい器に移植され、再び聖戦の為に戦えと言われた。
 お前は神に選ばれたのだからと。

 死ぬことさえ許されない。
 教団の為に、世界の為に、我々の希望になれと言う。
 死んでは生まれ、生まれては死んで。
 本当の自分のことなど何も憶えていない。
 本物の記憶は身勝手に削られて、偽物にすり替え植え付けられた。

 言葉にならなかった。

 がむしゃらに叫んで喚いて絶望して。
 心にぽっかりと大きな空洞を空けられ、底のない闇の中に落とされながら、噴き出した感情は一つだけ。

 〝憎悪〟

 それを持ってしか周りを見ることなどできなかった。





 全てが偽りに変わったあの日に生まれた心。
 彼女も、結局はそれと同じなのか。





「……神田」


 雪から顔を逸らす。
 何も言わず、何も見ようとせず、しかし肌から感じるのはピリピリと突き刺すような気配。
 そんな神田を前にして、アレンは静かに声をかけた。


「僕が雪さんを運びますから…君はマリやティモシーをお願いします」


 今の神田に、雪を任せることはできない。
 雪の為に、そして神田の為にも。
 静かに案を投げかけたアレンに、しかし返されたのは黒く鋭い眼孔。


「……テメェ、知ってたのか」

「は?」

「知ってたのかって聞いてんだよ」


 体に退魔の剣を突き刺して苦しんで、ノアと同じ金色の瞳で笑っていた。
 間近でその様子を見た神田は確信していた。
 あれはアレンの中にある14番目のノアメモリーの片鱗だ。
 間違いなく、アレンはノアとして覚醒する可能性を体に宿している。

 となると、雪とアレンはノアとして繋がっていたのか。
 だからエクソシストに興味のない雪も、アレンにだけは周りと異なる態度で接していたのか。


「答えろ」


 ピリ、と神田の肌から殺伐とした空気が滲み出た。

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