My important place【D.Gray-man】
第42章 因果律
「な…ッ」
見開く神田の目に映る、雪を覆うドーム状の札の壁。
その微かな隙間から、細く黒い煙がゆらりゆらりと立ち昇っていく。
「──ッ!」
瞬間、カッと血が昇った。
ガキィンッ!
激しくぶつかり合う金属音。
瞬く間に間合いを詰め、両手で握り締めた六幻を神田が振り下ろした先は、緋装束の男だった。
しかし遠慮のない頭を狙った攻撃は、その肌を断ち切りはしなかった。
ギリギリと刃が当たっているのは左腕。
構えるように足を広げ、顔に翳した片腕で男は神田の六幻を防いでいた。
その防御する腕はなんとも奇妙な、到底人のものとは思えない形を成している。
光沢のある、金属のような太く大きな腕。
手首は切断されたように切り離されており、腕と掌をチューブのような太い管が幾つも繋いでいる。
その切断面の空洞の中では、謎の光が微かに灯っているように見えた。
先程までは確かに普通の人の腕だった。
が、神田の攻撃により途端に異型へと変化した腕。
まるでアレンの左腕イノセンスを発動させたかのような、そんな現象に似ている。
しかし今、神田の頭の中にはその腕への興味や疑問は何一つ浮かんでいない。
あるのは怒りのみ。
「テメェ…ッ!」
至近距離で殺気を飛ばす神田の手に、一層力が入る。
強い競り合いに、カチカチと六幻の刃が震えて戦慄く。
「兄様!」
「いい。私に構うな。お前はノアを仕留めろ」
「ッさせるか…!」
駆け寄ろうとするテワクを、男が感情の見えない声で止める。
そうして続く男の言葉に、神田の殺気が膨れ上がった。
先に動いたのは神田。
その場から飛び退き刃を退ける。
と、六幻が刃をずらすように分離し、忽ち二本の日本刀へと姿を変えた。
「"八花(はっか)、」
「!」
飛び退いて距離を取っていたはずだった。
しかし次に男が瞬き目にしたのは、自分の懐に入り込んで二本の六幻を両手で構えている神田の姿。
殺気立つ黒い眼と目が合う。
「螳蜋(とうろう)"!!!」
「ッ!」
「兄様…!」
ザンッ!と鳴り響く斬撃。
斬撃音は一つだけ。
しかし目で追えない速さで、八つの斬撃が四方から男を斬り裂いた。