My important place【D.Gray-man】
第42章 因果律
「"のあ"…?…なんだそれ」
不思議そうにティモシーの口から発せられた名称。
その名に、ぴくりと雪の指先が微かに震えた。
この少年は誰と話しているのだろうか。
誰もいない宙を見上げて話しかけている。
そこに見えない何かがあるかのように。
けれどそんな疑問を問いかける余裕もない。
自分の目で見て確かめることができるのは、褐色の肌だけ。
しかし恐らくこの目にも、そして額にも。ノアとしての証が表れているのだろう。
あの耳鳴りはジャスデビのメモリーを流された時に感じたものと、よく似ていた。
ただその耳鳴りより遥かに強い共鳴音だったが。
勝手にノア化した体。
それは真夜中にジャスデビの過去を夢に見た時と同じ。
自分の意思ではどうしようもできない出来事。
雪はぐっと震える指先を握りしめた。
「なんだよ真逆って。イノセンスとは違うのか? なあ、ツキカ」
「っ!」
不思議そうに未だに宙に問いかけるティモシー。
その姿を目に映した時、ぞわりと雪の背中を悪寒が駆けた。
ひやりと背中が冷える。
同時に、ゴキッと鈍い音がした。
「ぅぐ…ッ!?」
背中に感じた鋭い痛み。
その音が自分の背中に入れられた蹴りだと気付いた時には、雪の体は飛ばされ削れた地面に薙ぎ倒されていた。
「ねーちゃん!? な、なんだよお前…!」
驚くティモシーの目と地面に手を付き振り返った雪の目に映り込む、緋色のマント。
「まさか此処でノアに出くわすとは、思ってもみませんでしたわ」
(あれ、は…っ)
冷たい女性の声。
その姿には見覚えがあった。
緋装束のマントに同じ色の帽子。
目元を隠し表情を消した顔布。
中央庁から来たという、リーバーの護衛についていたあの謎の人物だ。