My important place【D.Gray-man】
第42章 因果律
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結界の張られた、暗い闇の世界。
其処にもうAKUMAはいない。
しかしAKUMAとはまた別の問題を抱えた人物が一人。
長い沈黙だった。
恐らく時間にすれば訳はない。
それでも雪にとって、肌を伝う汗の冷たささえも感じ取れる程、長い沈黙に感じた。
「………なんだそれ…?」
その重い沈黙を破ったのは、幼いティモシーの声だった。
息を呑み言葉を詰まらせるリンクの体から離れて、恐る恐る雪に歩み寄る。
不安げな表情から、ぱっと一瞬にして変わる。
笑顔。
「もしかしてねーちゃんもエクソシスト!? すっげぇ!」
「…っ」
(違う)
とは言えなくて。
笑顔で駆け寄るティモシーに、雪はぐっと唇を噛み締めた。
「待ちなさいッ」
「ん? なんだよあんちゃん」
ティモシーの腕を、リンクが掴み止める。
怪訝に振り返るティモシーに複雑な表情で返して、やがてその目は緊張した色で雪へと移し変えられた。
「あれは……彼女は、エクソシストではありません」
リンクの目に映る雪の姿。
全身褐色の暗い肌に、鮮やかに光るような金色の眼。
そして前髪ではっきりとは見えないが、その隙間から垣間見える痕は、間違いない。
十字の聖痕。
それは資料で見たことのある"彼ら"と、全く同じ姿を成していた。
「何言ってんの? だってねーちゃん、あのAKUMAを倒したんだよ。イノセンスってやつじゃなきゃAKUMAを倒せねーんだろ?」
『…マスター。あれはイノセンスやない』
「え?」
きょとんと首を傾げるティモシーに、傍を浮遊していた憑神がじっとその目に雪を映して首を横に振る。
『ワイ自身がイノセンスやねんから、感じる気配でわかる。あのねーちゃんはイノセンスやない。それとは真逆のもんや』
「真逆?ってなんだよ?」
更に問いかけてくる主に、ようやく憑神の目が向けられた。
切れ長の鋭い目が、じっとティモシーを見下ろして、やがてそっと瞼は閉じられた。
『──…ノアやっしゃ』
そう、間違えようのない答えを吐き出して。