My important place【D.Gray-man】
第42章 因果律
「ん?…んん~…?」
「なんだジジ。どうした?」
「いやぁ…こいつは…」
孤児院の建物の周りをくまなく歩き回り探索していたジジの足が、ぐるりと一周して元のドアの前へと戻ってきた所で徐に止まる。
その眼鏡の奥の目は、じぃ~っと胡桃色の煉瓦を凝視していた。
習うようにしてリーバーもグレーの瞳に煉瓦を映し出す。
するとそこにぽつんと、映える赤い点を見つけた。
目を凝らす。
それは春先によく目にする昆虫。
「…レディバグ?」
赤の服に黒の斑点模様。
フランスの地ではコシカルと呼ばれる、小さな可愛らしいシルエットの虫。
なんでこんな真冬に…と呟くリーバーを無視して、ジジはその虫をじっと凝視し続けていた。
「その虫がどうかしたのか」
「こいつ……ただの虫じゃねぇぞ」
「え?」
「見ろよ、この背中の術印。こんな模様、普通の虫が体に刻んでる訳ねぇだろ」
ガサゴソとポケットから徐にルーペを取り出して、コシカルに翳して覗き込む。
そうしてはっきりとルーペに大きく映し出された、コシカルの背中の術印にジジは目を見開いた。
「こいつァ──」
「退け」
「ん?」
「あ?」
ふと背後に掛かる低い声。
何かと言葉を止めて見れば、ジジの視界の隅にひらりと映る鮮やかな緋色。
いつの間にこんなに傍にいたのか。
近付く気配すら感じさせず、静かに孤児院の階段を上りきった緋装束マントの腕が、目の前のドアに手を付く。
と。
「えっ!?」
「な…ッ!」
ぐにゃりと歪むドアの側面。
雪の体を取り込んだ時とはまた違う、大きな歪みの波紋を浮かび上がらせながら、結界の張られたドアは目の前の男を受け入れた。
「待って兄様! テワクも行きます!」
その後を追うようにして次に飛び込んだのは、同じく緋装束マントの女。
ぐにゃぐにゃと歪んだドアは、瞬く間に二人の体を飲み込んでしまった。
あっという間の呆気ない目の前の出来事に、ぽかんと口を開けるジジと唖然と目を見張るリーバー。
建物の周りを探索していたバズとゴズもまた共に。
そして。
「「「「ええぇええええ!?!!」」」」
再び彼らの叫びは、僅かに湿気を帯びた白い空に響き渡ったのだった。