My important place【D.Gray-man】
第42章 因果律
ふっと顔にかかる巨大な拳の影。
空気の振動が、ふわりと雪の髪を浮かせて靡かせる。
「ねーちゃんッ!!!」
悲鳴のようなティモシーの声に、はっとした神田が顔を向ける。
見えたのは、力なく見上げる雪の顔面に、真上から振り下ろされようとしているAKUMAの拳。
「雪さんッ!」
「チィッ!(間に合わねぇ…ッ!)」
いくら速さに定評がある神田でも、この開いた距離を一瞬では移動できない。
頭では状況を理解していても、動く体は止められるはずもなく。
立ち上がり様に駆け出すアレンと共に、神田はその場から飛び出した。
バチッ…!
AKUMAの拳と雪の顔が触れ合う瞬間。
響いたのは強い摩擦音。
「……あ?」
振り下ろそうとした拳は、何故か目の前の人間を潰しはしなかった。
怪訝な声でAKUMAの目が真横に向く。
そこには、弾かれた自分の拳があった。
パリパリと機械の肌を纏う微弱な痛み。
己の拳から感じる痛みに、AKUMAはその手を凝視した。
なんだ、今のは。
──パリ、
パリパリと響く小さな電気のような音。
それは目の前の小さな人間の体から発せられていた。
「なんだァ? しゃらくせぇ…!」
再びゴゥッと振り下ろされる拳。
パチンッと雪の体に纏う微かな光。
バチチッ!
「なん、だァ…!?」
それは先程の結界と同じように、AKUMAの拳を防ぐと強い摩擦音を発した。
しかしこれは結界の壁ではない。
先程の感覚とは違う。
まるで高圧のエネルギーに跳ね返されているような感覚。
目の眩むような眩い光に、バチバチと激しく打ち鳴らす音。
なんだ、これは。
「なんなんだよお前ぇえ!」
憎々しげに叫ぶAKUMAの前で、纏う光で拳を遮断する。
そんなたった一人の人間を、AKUMAは無数の目で凝視した。
なんだこいつは。
本当にただの人間なのか。
もしかしてエクソシストではないのか。