My important place【D.Gray-man】
第42章 因果律
何故この暗闇の世界にハースト孤児院があるのか。
もしかして自分達が目にしていた孤児院は、偽物だったのか。
様々な憶測が頭に飛び交う中、とにかく雪はがむしゃらに足を動かした。
「は…っ!」
息を切らして走る。地平線も見えない広い暗闇の世界に、唯一灯された明かりに向かって。
やがて雪の目にはっきりと見えてきたのは、半壊したハースト孤児院と散らばっている瓦礫の山々。そして幾つもの人影だった。
「しぶとい奴め…ッ死ね死ぃねぇええ!!!!」
ガリガリと鉛を無理矢理に削り落とすような、耳障りな音が響く。
それは幾つもの金色の札を盾のように宙に張り出している、リンクの元から発せられていた。
札の盾に拳を打ち込んでいるのは、5mはあろうかと思われる巨体のAKUMA。
その機械の拳を受けながら、一枚、また一枚と力尽きた札が破け落ちていく。
「く…ッ」
「あんちゃんッ! ヒビが…っ体まだ元に戻ってねーじゃんッ!」
どう見てもAKUMAに圧されている状況。
その原因の一つは、リンクの体にあった。
背中に庇ったティモシーが、リンクの体にしがみ付く。
ティモシーの言う通り、リンクの体はまだ完全に人形化から回復はしておらず、皮膚の至る所に硬化の"名残り"があった。
"弾力性のないものは力を加えただけで簡単に壊れてしまう"
レベル2のAKUMAがパメラの顔を踏み砕いたように、レベル3のAKUMAの拳の圧を前に、リンクの硬化したままの皮膚に亀裂がピシピシと入っていく。
このままではレベル3の拳が届かずとも、彼の体は圧力によって崩壊してしまう。
「壊れちゃうよ! 死んじゃうよーッ!」
『踏ん張れあんちゃん! マスター守ってぇ~!』
顔を青褪めて止めようとするティモシーとは裏腹に、憑神は主を守ることを第一優先に応援していたが。
無論、その声はティモシーにしか聞こえていない。