My important place【D.Gray-man】
第42章 因果律
「マリ…!(被弾しやがった…!)」
神田の息を詰まらせた声がマリの名を呼ぶ。
自分やアレンはまだいいだろう。
何発AKUMAの弾を喰らおうが、辛うじて命は繋ぎ止めていられる。
けれど彼は。
「そうびがたえくそしすとは、からだがにんげん。ういるすでかんたんにしんじゃう♪」
にんまりと目元を歪めてレベル4が嗤う。
AKUMAの言う通り。
たった一発でも、その銃弾を体に喰らうこと。
それはマリの死を意味していた。
ズズ、と空洞を空けた指先に、赤黒いAKUMAのシンボルである星型模様が浮かび上がる。
AKUMAウイルスに感染した人間に起こる症状。
やがてその星型模様は数を増やし全身が赤黒く染められた時、人の体はガラス細工のように砕け散って死に至る。
一連の動作は数分と保たない。
はっきりとした時間は明確にはされていないが、早い時はものの数十秒で死に至る。
正に悪魔のウイルスだった。
数秒から数分のマリの命。
死を悟った彼が行動に起こしたもの。
「く…っ!」
「!」
それは瞬くような一瞬の出来事だった。
きゅっとマリの指の根元に巻き付く金属線。
瞬間、ずばっと簡単に切り取られた指先が宙を舞う。
真っ暗な空に飛んだマリの二本の指は、あっという間に赤黒く染まり尽くしガラス細工のように砕け散った。
しかしそれは切り離した指だけ。
彼自身には何も起こっていない。
「ういるすがひろがるまえに…(いっしゅんのまよいもなく、きりおとした)」
唖然とした声でレベル4が呟く。
それ程までにマリには迷いがなかった。
一瞬の迷い。それだけで死へと直結してしまうウイルス感染。
だからこその判断と行動なのだろうが、思っていても突然のことに体は簡単には動かない。
人間とはそういう生き物だ。
なのに。
「…なんて、ばからしい」
一瞬の躊躇も見当たらなかった。
恐らく彼は、戦う前から死を覚悟して生きている。
自分の死を認めて受け入れながら、それでも生きようと足掻き戦う。
「…しんだほうがらくなのに」
白いAKUMAの白い口。
そこから溜息が零れた。
「なんてばかなんだ」
到底理解できない、人間の心を前にして。