My important place【D.Gray-man】
第42章 因果律
「邪魔だ退け…ッ!」
「きゃはったにんをきにかけるよゆうがあるの?」
歯を食い縛り、目の前の白い体を睨み付ける。
そんなアレンに薄い笑みを返しながら、レベル4は空いている右手を翳した。
大きなガトリング銃と化している左手とは違い、極普通の人の手の形をした右手。
それがメキリと変形した。
「な…っ」
「ぬ? 増えた…っ!?」
「っのヤロ…!」
思わずアレン達の顔色が変わる。
メキメキと変形した右手が成した形は、左腕のガトリング銃と全く同じものだったからだ。
あの左手の銃弾の嵐でさえ厄介なのに。
これ以上武器を増やされたら、下手したらマリにまで被害が及んでしまうかもしれない。
「しんじゃえ♪」
巨大な銃倉を抱えた両腕を構えて、悪魔が嗤う。
ドドドドド、と更に大雨のように降り注ぐ銃弾の嵐に、アレンの頭に一瞬浮かんだ嫌な予感。
それは現実へと変わってしまった。
「っあ…!」
「マリ!」
降り注ぐ雨のような銃弾を、自身のイノセンスであるピアノ線のような強度の高い金属線で弾いていたマリ。
そうして弾が体に当たらないよう辛うじて防いでいたが、耳に取り付けた拡聴器にAKUMAの銃弾が掠め弾き飛ばされた。
「しまっ…!(音が拾えない…!)」
盲目であるマリだが、白杖や盲導犬など使わずとも健常者と変わらず生活することができる。
まるで見えているかのように、心音で人との間合いを取り、その者を見極めることができる。
それは彼の驚異的な聴覚があってこそのものだった。
そしてその音を健常者以上に的確に拾い集めることができるのは、科学班が作り上げた特別製の拡聴器を身に付けている為。
拡聴器がなくても生活に支障はないが、細かな音は拾えなくなってしまう。
それは極僅かな差。
しかし戦場では命取りとなる差だった。
ドンッ!
その音ははっきりとマリの耳にも聞こえた。
拡聴器のない耳へと届く、銃声音。
「…ッ…!」
それと同時に指先に走る熱い痛み。
金属線を巻いた指は、AKUMAの銃弾によって抉られ空洞を空けた。