My important place【D.Gray-man】
第41章 枷
目の前に立っている人物を凝視する。
見た目はどこからどう見ても、神田ユウその人。
…でも違う。
「……誰、なの」
ざわざわと騒ぎ立てる心臓。
思わず後退る。
距離を取りながら問いかければ、まぁるくなったその人の目がぱちりと瞬いた。
「何訳のわかんねぇこと言ってんだよ」
眉間に皺を寄せて少し不機嫌そうに返してくる。
その反応はユウらしいものだったけど。
でも、違う。
触れて気付いた。
あのキスはいつもユウから貰ってたものじゃない。
「…ユウは喫煙者じゃないから」
ほんのりと掠めた独特の苦み。
クロス元帥と同じ部屋で過ごしていた幼い頃。布団の中に引っ張り込まれた時に、鼻を掠めたものとそれは同じ苦みだった。
いつも当たり前のように咥えていた煙草の匂いは、元帥に染み付いていたもの。
慣れていたから不快だとは思わなかったけど、あれは普段のユウからは感じないものだ。
はっきりと言えば、またまぁるくなる黒い目。
ぱちぱちと瞬くと、今度は口元が──…にぃと笑った。
「まっさかそんな原始的な理由で見破られるたァな。参った」
さっきまで聞き慣れていた低いユウの声がガラリと変わる。
まるで音声のスイッチを切り替えたかのように。
聞こえたのは、ここ最近聞き慣れていた声。
「……ルパン…?」
あの大泥棒の声だった。