My important place【D.Gray-man】
第41章 枷
「そう怖い顔しなさんなって。男はよ、女に騙される為に生きてんだ。懐深くいてやんねぇと逃げられっちまうぜ?」
「…うっせぇな」
あいつが俺に黙ってた意図はなんとなくわかる。
思いが強ければ強い程、口を閉ざすことがある奴だ。
怪我を負ってでも必死でこいつから数珠を取り返そうとしたんだろう。
それを否定する気はない。
…だが、
「頼らなさ過ぎだ、あの馬鹿」
目の前の泥棒には届かないよう、小さく悪態をつく。
そう簡単には弱音を吐かない奴だ。
それは知ってる。
誰にも頼らず一人で立ってきた奴だ。
それも知ってる。
数珠はあいつにやったもんじゃない。
俺が雪に"預けた"もの。
だから後ろめたさなんて感じたんだろう。
その気持ちだってわかる。
……でもな。
怪我負ってGに体乗っ取られて独房に放り込まれまでしたなら、弱音の一つくらい吐けってんだあの馬鹿。
「…とにかくそいつは返してもらう。国宝も置いていけ」
とりあえず今優先すべきは、第一にそれだ。
目線の高さに六幻を構えて、そう呼びかけた。
ドッ…!
「「!」」
その時、無数の白く長い帯が空から突き刺さるように落ちてきた。
反射的に見上げた暗い雪空には、舞う粉雪と同じく真っ白な姿が見えた。
爺みたいな白い髪に白いマントを羽織った姿。
屋上の床に突き刺さった帯は全て、その白いマントを羽織った手首に繋がっていた。
これはモヤシのイノセンスの技の一つだ。
「今ですッ神田!」
「なんだぁ? これ…ッ」
空から狙った帯は猿泥棒を囲うようにして、床に突き刺さっている。
幾つかの帯はその四肢に巻き付いて動きを封じていた。
モヤシの助けを借りるってのは気に喰わねぇが、今はそんなこと言ってられない。
一気に距離を詰めると、六幻を振り上げる。
「ッわ! ちょッちょっと待ってタンマ!」
「誰が待つか…!」
その手首斬り落としてやる!
ガキィンッ!
左手首を狙って振り下ろした六幻。
それは肉を断ち切る前に、堅い何かにぶつかった。
「何…っ」
見えたのは、白く光る刃。
六幻の刃を受け止めていたのは、その光沢ある刃だった。