My important place【D.Gray-man】
第41章 枷
動きを止める程度の攻撃じゃ埒が明かない。
…相手は泥棒だ。
前科ある奴に手加減なんて無用だな。
「返さねぇなら手首ごと斬り落としてやる!」
「オイオイ、落ち着けよ。盗んだんじゃなくて担保にしてただけだから…って危ねぇ!」
「ほざけコソ泥が…ッ!」
「大事なモンなんだろっ? 傷付いちまうぞ!」
そいつの手首を斬り落とすつもりで六幻を振るえば、庇うように腕を引っ込めてくる。
大事?
「…別に傷付こうが構わねぇよ」
攻撃の手を止めて、切っ先を向けたまま答えてやることにした。
「それ自体を特別視なんてしてない」
多少数珠が欠けるくらいどうってことない。
身に付けていられるなら。
それはアルマへの罪を形として俺が俺自身に科したものだ。
"枷"の役割として身に付け易かったから、それを選んだだけ。
"枷"としての思いを込めたから、ずっと身に付けていただけ。
壊れたらはい次、なんて簡単に物を変える気はない。
そんな安い気持ちで身に付けるのは、安い覚悟にしかならないから。
だから壊す気はないが、特別大事に扱う気もない。
俺にとってその数珠は、そんなあやふやな位置付けのものだった。
『私が神田の枷になるよ』
…だがあいつにはそうじゃない。
しっかりと数珠を握り締めて、自分に言い聞かせるように口にして。
腕に通した数珠に何度も目を向けては、嬉しそうに緩んだ顔で笑って。
それだけあいつにとってその数珠自体が意味あるもんなんだ。
世紀の怪盗だか大泥棒だか知らねぇが、そんな奴に盗られて堪るかよ。