My important place【D.Gray-man】
第41章 枷
✣
「……ふ、」
粉雪が舞う夜空の下、ルーブル美術館。
その門前にある石像の台座に腰掛けたまま、微かな笑い声が聞こえて目を向けた。
俺の真下。
大きな石像の下には門前で警備していた警察を気絶させて見張る、マリの姿がある。
口元には微かな笑み。
「どうしたマリ。何か聴き取れたのかよ?」
「あ、いや。問題ない」
石像に座ったまま見下ろせば、顔を上げたマリが首を横に振る。
…大方、通信ゴーレムの向こう側で食いもんを取り合ってるモヤシと監査野郎の声に反応したんだろう。
マリの耳はその声だけでなく、心音から感情をも読み取ることができる。
モヤシ達から笑える心音でも拾ったのか。
…まぁ、俺には関係ねぇけど。
「聞こえるか、モヤシ」
『ファレンれすが』
「食うのをやめろ。そろそろ時間だ」
声をかければ、ゴーレムの向こうから美術館の屋上で待機しているモヤシの声が届く。
何か食ってんのか、もぐもぐと租借しながら。
こんな時まで食い意地張ってんなよ。
時刻を確かめる。
0時5分前。
予告通りに動く奴なら、そろそろGが姿を現す時間だ。
パリ警察署の独房を後にして、俺達が向かったのは犯行予告の示された場所だった。
ガルマーには悪いが、イノセンスの可能性と雪の釈放がかかってんだ。
出所がわかってる怪盗Gを、わざわざ見過ごす意味はない。
警察の中に紛れ込んで見張る門前から、もう一度目の前に視線を向ける。
そこには警察が用意した照明で明るく照らされる、巨大な美術館が見えた。
「みすみす警察に獲物取られんじゃねーぞ」
「獲物じゃなくて怪盗Gだ、神田」
どうせ捕まえんだ、どっちだって変わんねぇだろ。
『りょーかいっ』
マリの突っ込みを無視していれば、ゴーレムの向こうから相変わらず食いもんを租借する間抜けな声が届く。
時刻を確かめる。
0時1分前。
…そろそろか。
「俺はG捕獲に行く。マリはGの"声"を張れ」
「わかった」
ひらりと石像から飛び降りて、着ていた団服のコートを脱ぐ。
布袋から取り出した六幻の鞘を握り肩にかけた時。
「Gだーッ!!!」
硝子を突き破る音と共に警察の声が響き渡った。