My important place【D.Gray-man】
第41章 枷
"ウォーカー"という呼び名にまごつく僕を見て、静かに口を開いたのは師匠だった。
あの時の声も…静かに囁くようなものだったっけ。
『家族でもないのに、僕なんかがおこがましいっていうか…だから…』
『歩く人(ウォーカー)』
スタスタと先に教会の外へと歩きながら、目も合わさず発せられた言葉だったけど。
『いいんじゃねぇか? "歩く人"。お前にピッタリだろ』
当たり前に受け入れてくれているその言葉に、つい赤面してしまったんだっけ。
『ウォー…カー…アレン…ウォーカー…』
…嬉しかったから。
ただ純粋に、嬉しかった。
大好きなマナの姓を与えられて、名乗ることを許されたことが。
10歳そこらの僕にとって、それは凄く大きなことだったんだ。
何度も何度も呟いて、噛み締めた。
〝歩く人〟
その名を。
「──何ッ回聞いても遺言みたいに聞こえて腹立つな~」
「違うんですか」
「だってあの師匠に、こんなの似合わなさ過ぎる」
ちらほらと降り積もる粉雪の中。怪盗G捕獲の為に待機している、ルーブル美術館の屋上で愚痴を零す。
ぐにぐにと目の前の再生を終えたティムの口元を、左右に引っ張って。
だってあの人、遺言なんて残すようなタイプじゃないし。
というか簡単に死ぬようなタマじゃないし。
…師匠らしくもない。
「うん、道は決まってない」
たん、と雪の薄く積もったコンクリートの床を踏みしめて立ち上がる。
「自分が、つくる」
僕はアレン。
"アレン・ウォーカー"だ。
師匠の言葉を素直に聞き入れるのは、なんだか癪だけど…でも、師匠の言う通りだとも思う。
なんで14番目の意志を師匠が継いでいるのか。それはわからないけど…僕は14番目にはならないと誓ったから。
僕も僕の意志を曲げる気はない。
僕の歩く道は僕がつくる。
「という訳でリンク、これ最後のドーナツ食べていい?」
「って君それ何個目ですか!」
「え?…10?」
「15です!」
あれ、そうだったっけ。