My important place【D.Gray-man】
第41章 枷
エクソシスト元帥でありながら、僕の師である人──クロス・マリアン。
その人を初めて僕の師として、共にイギリスの田舎町を旅立ったあの日。
あの時は…まだ僕はほんの10歳程の子供だった。
はっきりした年齢なんて覚えていない。
歳を数えながら生きてなんてこなかったから。
マナをこの手でAKUMAに変えて、マナをこの手で破壊して。
生きる道が閉ざされて目の前が真っ暗になった僕を拾ったのは、師匠だった。
師匠のパトロンであるマザー。
そして使用人であるバーバが住む小ぢんまりとした教会。
其処で、マナに傷付けられた左目の手当てと、全く動くことのなかった左手の寄生型イノセンスのリハビリ。
そしてマナを失ってぽっかりと抉られた、僕の心の休息を与えてくれた。
『んじゃ行くわ』
『あの…お世話になりました!』
『元気でな、アレン! 神父さまみたいな恰好良いエクソシストになるんだぞッおら応援してっから!』
『ありがとう、バーバ』
やっとまともに話せるまでに回復した僕を連れて、師匠が教会を旅立つあの日。
自分のことのように喜んで見送ってくれたバーバ。
『じゃあな、アレン・ウォーカー』
そんなバーバの大きな体の後ろで。いつものように咥え煙草に杖を付きながら、歳を重ねて皺の寄せた目を向けながら当たり前にマザーが口にした名。
『……』
『なんだい、そのツラは』
『あ。いえ、あの…ウォーカーはマナの名前なので…僕は…』
"ウォーカー"と呼んだのは、彼女が最初だった。
〝アレン〟
その名はマナが僕にくれた名。
…いや。くれたんじゃなく、元々連れていた犬に付けていた名を…僕に重ねて呼んでいただけ。
あの日、あの寒い冬のクリスマスの日に、マナの頭は壊れてしまったから。
意識がごっちゃになったマナは僕と犬の区別が付かなくて、犬の"アレン"と思い込んで僕のことを呼んでいた。
…それでもよかった。
僕がマナの頭を壊してしまったから。
だから僕がマナの"アレン"になる。
"アレン"として、ずっとマナの傍にいる。
そう決めたから。
でも"アレン"という名は貰っても、マナの姓である"ウォーカー"を僕が名乗るのは、なんだか失礼な気がして。
最初は受け入れられなかった。