My important place【D.Gray-man】
第41章 枷
「なんで渋ってんだ。吐け」
「……」
声を低めて問いかける。
それでも雪は口を噤むと、何も発さず視線を逸らすばかり。
余程言いたくないことなのか、言えないことなのか。
…それだけ大事なことなのか。
こいつは思いが強ければ強い程、黙り込む時がある。
今回のそれもそうなのか。
………だとしたら尚更納得いかねぇ。
なんだよ、その大切なもんって。
何盗られやがった。
「おい、雪──」
「だぁから! そういうところが恋人として駄目だって言ってんのよ!」
「…あ?」
突如目の前にドアップで映り込む、気味の悪い顔。
…邪魔だ退け。
雪と俺の間に割り込むように顔を覗かせる女男をつい睨む。
「女が渋る時の理由なんて一つでしょッそれを無理矢理言わせようとするなんて野暮ったいことするんじゃないのッ」
「…んだよその理由ってのは」
それがわかんねぇから聞いてんだろうが。
「もう、そんなこともわかんないの? 全く、仕方ないわねぇ…」
「っ! ま、待ってボネールさん…!」
やれやれと呆れた顔で溜息をつきながら、女男が口を開く。
後ろから慌てて止める雪の静止も聞かず、分厚い真っ赤な唇から発せられたもの。
「形のないものを盗られたからに決まってるでしょ。いやん恥ずかしッ!」
ゴツい自身の体を抱きしめてクネらせながら、頬を染めて恥じらう──………なんだこの気色悪い生き物は。
「形のないものってなんですか?」
「あらまぁ気になる? でもダメよ、それ以上先は未成年のボーヤが首突っ込んじゃ」
「えっ!?」
不思議そうに首を傾げるモヤシに、ばちんとウィンクしながら意味深な言葉を投げかける。
投げかけられた本人は何を想像したのか、忽ち顔を赤く染めた。
…おい今何想像しやがった。
「や…あの、ボネールさん…それ色々間違ってる。アレンに変な誤解させるのやめて下さい」
「違うの? embrasserでしょ?…あ。baiserの方かしら」
「違いますっ!」
平然と流暢なフランス語で発する女男の言葉に、今度は忽ち雪の顔も赤く染まった。
…なんだそのベーゼってのは。