第7章 特別指南 1
「やぁ、待たせてしまって悪かったね。」
書物から顔を上げた彼女。
美しい黒曜の瞳と目が合う。
らしくない、これだけで鼓動が跳ねる。
近づいて書物を覗き込めばふわりと香る甘い花の薫り。
頭を撫でる手が震えていることに気づかれなかっただろうか?
彼女には書庫の整理の仕事を与えた。
隊舎の奥、他の隊士は滅多に足を運ばない場所。
誰の目にも触れさせない。
何故なら……
「瑞原さん?」
彼女と同期生の隊士が声をかける。
頬を赤らめ、少し興奮して彼女を食事に誘う。
良くも悪くも彼女は周りの者の関心を惹く。
一般的に美しい容姿と優秀な成績を修めていた彼女。
ああして好意を抱く男子生徒は多くいた。
同性の生徒からは嫉妬や嫌がらせを受けていた報告もあった。
父親を亡くした後、孤児となったことへの差別もあったようだった。
それでも純粋に直向きに育ってきたのだと思う。
彼女の強い意思と気高さが窺える。
だから、周りの者は惹かれていく。
最近は仕事で他の隊に出向いてるせいでその人数はうなぎ登りに増えている。
あからさまなのは十一番隊の更木と技術開発局の阿近。
市丸ギンも隠してはいるが、興味を持っているのは気づいている。
一人の女性にこうも気持ちがかき乱されるとは思わなかった。
自分にこんなくだらない、ただの男のような感情があることは認めたくない。
認めたくないが、こうして目の前にしてしまえば突き付けられる本音。
彼女は誰にも渡したくない。
どれ程高みを目指す理想を持とうとも、彼女の前ではただの男なのだと。