第5章 四番隊のお仕事2
目の前で市丸隊長が声をあげて屈託なく笑っている。
第一印象があまりにも怖かったからこんな風に笑うなんて意外。
急にキスされた怒りと恥ずかしさがすっと抜けていく。
屈託ない笑顔に思わず優姫の口許も綻んだ。
優姫の笑顔を見た市丸は優姫の正面に座り直し、ふと真顔になる。
「そうやって笑ってたらええよ。なんや何でもかんでも押さえ込んでてもええことないよ。」
優しく笑う目許に思わずドキリとする。
無理矢理感情を殺して生きてきたことに気づかれてた。
会ったばかりなのに、何だか自分を理解してもらえたみたいな嬉しさが込み上げる。
表情に乏しい冷たい奴だと思われる事のほうが多かった。
本当は辛い時だってあった。
辛くない、辛くなんてないと言い聞かせて心の慟哭を鎮めた日の方が多いかもしれない。
身寄りもない自分がここまで来た道のりは決して容易くない。
誰かの為に生きたいと、誰かに必用とされたいと必死だった。
この人には解るのだろうか?
こうするしかなかった私の気持ちが。
市丸隊長の手が伸びてそっと頬を撫でる。
冷たい滴が拭い取られる。
知らずに泣いていたことに気づく。
慌てて下を向こうとした顔を今度は両手で包みこまれた。
「隠さんでええよ。今はちゃんと泣いてしまい。他の誰にも見せられんのやろ?ボクと優姫ちゃんだけの秘密や。」
こんな風に優しく涙を拭って貰うのはいつ以来だろう?
あの事件の後に優姫が涙を見せたのはただ一人、卯ノ花隊長だけだった。
そのうち涙を止められず子供の様にしゃくりあげて泣く優姫が落ち着くまで市丸ギンは細い身体を抱き締めていた。