第4章 "雪螢"
.。o○物語
それは嘘ですよ。
凛とした声が雪女の耳に届きました。
振り替えれば薄い瞳の色をした、紫陽花の色のフードを被った少年が立っていました。
少年はさらに続けます。
若者は雪女が理由で殺されたのではなく、それを建前に殺されたのです。
……貴方は誰……?
すっ……と瞳を少年は細めました。
背丈には似合わない、大人びたような、それでいて幼さを感じさせる、魅惑的な声でした。
私の名は雨龍……。憎しみを糧に生きるもの。
う、りゅう……?
少年は腰を屈め、雪女の耳元に唇を寄せました。体温を感じさせない温度で、人間ではないと雪女は察しました。自然に肩を強ばらせます。
貴方は雪女ですね?
雪女がその言葉に驚いて目を見開くと、少年はは満足そうに口角をあげました。
雪女は絶滅寸前の生き物。
死なれては困るのですよ。
……何のはなしですか?
私は一緒に逝きたいのです。
そんなこと関係ありません。
濡れた瞳で、雪女は怒りを露にしました。
すると少年はまるで人を見下すように、ずる賢い狐のような瞳を見せ、言うのです。
……いいのですか?
貴方のその力_____復讐に使ってみては?
そう少年が言うと、若者の握りしめられていた手から、なにかが浮かんできました。
ハッとして手を伸ばすと、桃色の小さな花びらが雪女の掌に包まれました。
_________桃色の花がいいわ。
一ヶ月前の約束。
若者は果たそうとしてくれていることに、雪女は知ったのです。
涙があとからあとから止まりません。
嗚咽を漏らしながら、桃色の花びらを優しく握りました。
何でこんな優しい人が死んだのだろう。
私を建前にしてこの人を殺したのは誰?
瞬間、小さな炎が大きく燃え上がる感覚を雪女は味わいます。
雪女が、心に憎しみの炎を宿したのです。
それでいい。
雨龍と名乗った少年は薄く笑い、言いました。
企みを含んだ、嫌らしい笑みでしたが、何故かその姿に雪女は恐怖を感じませんでした。
若者を殺した人の名は私は言えません。
ですが、心から貴方の復讐が上手くいくように祈っていますよ。
____________螢。
気がつくと、いつもの家にいました。
体を起こして手を開けば桃色の花びらが存在しています。そのことにホッとしつつ、雪女は覚悟を決めました。
殺してやろう、と。