第4章 "雪螢"
.。o○物語
冬が終わり、雪の代わりに舞い散る花びらが増えた頃、ふとあることに男は気がつきました。
君は溶けてしまわないのかい?
冬は終わってしまうよ。
雪女は口元に手を当ててくすくすと笑いました。
何度いったら分かるの?
私は自分の溶ける温度くらいわかっているわ。
私が住むこの雪山……雪がなかったことなどないくらい村の住人の貴方なら知っているでしょう?
確かにそうだ。
村ではある意味、気味悪がられているがな。
気味悪がらないのは貴方くらいよ。
そりゃ、こんな綺麗な人が住んでいるのだから。
お上手ね。
成程、彼女は溶けないのか。
夏になっても会いに来れるのか。
そんな風に若者は嬉しく思いました。
若者は雪女の手に、自分の指を絡めました。
ぴくり、と雪女は肩を震わせますが、抵抗はしません。
けれど、大事な一言はいつも喉の奥で止まってしまいます。
触れてはいけないものに触れたはいいものの、開けてはいけない気がしていたからです。
勿論、若者も雪女も愛し合っていました。
けれどどうしてもそれ以上先にはいけなかったのです。
今度はこの白い指に映える花びらを持ってこよう。
この山からも微かにに見える木の上に咲く桃色の花がいいわ。
わかった、約束しよう。
この時までは、こうやってしゃべればいい。それだけで幸せだと感じていました。
けれどこのあと雪女は知るのです。
愛するものを失う悲しみと、自分の無力さを。
収まらない憎しみと、儚く消えた優しさを。
この世の不条理を。
自分のせいで大切な人を失った、涙の味を。