第45章 ルージュ
口にした言葉には責任を持つ
バスケではもう誰にも負けないという決意も、未だに果たされる機会のない誠凛へのリベンジも、全国制覇の夢も。
そして、彼女との約束も。
有言実行という便利な言葉を思いつかないまま、宣言通り、結の腕を引いて帰宅した黄瀬は、静まり返った家の空気に小さく拳を握った。
「日曜なのに……お母さん、は?」
「家にじっとしてらんないタイプだからね。いい天気だし、どっか出掛けたんじゃないっスか」
適当なことを言いながら階段を上り、黄瀬は自分の部屋の扉を勢いよく開けた。
朝、布団から飛び出したままのベットが、きちんと整えられていることに初めて感謝しながら、戸惑うように足を止める身体を抱き寄せて迷うことなくダイブ。
「よっ、と」
「きゃ……っ」
夕陽を浴びて深みを増す紺青のベッドカバーが、突然の来訪者を受け入れて大きく波打つ。
ふわりと広がるスカートを押さえる結の上にのしかかると、黄瀬はそれが当然であるかのように、腰のリボンに手をかけた。
「ちょっ、黄瀬さ……」
「ベッドの上は名前で呼んで欲しいんスけど」
水着の時とは違い、するりと解けるそれは、これからの行為を受け入れる合図。
もっとも、そう解釈できるのは、恋人だけの特権だ。
満足気に微笑んだ黄瀬は、リボンの先端を口に含んだ。
「結がオレの名前呼ぶの、スゲェ好きなんスよ。ホラ、早く」
「そんなコト、いきなり言われても……」と不満を訴える唇を、黄瀬は指先で突いた。
「口紅、すっかり取れちゃったね」
「だ、誰のせいですか……誰の、んンっ」
名前を呼ばせる方法に、心当たりがない訳ではない。
むしろ、振り落とされないように首にしがみつきながら、うわ言のように『涼太』と繰り返す声がたまらなく好きだった。
黄瀬は、校内で強制終了するしかなかったキスの続きを、待ちきれずに再開。
強引にこじあけた唇の奥深く、逃げ回る舌をいとも簡単に捕獲する。
「あ、っ……ん」
「ン、さっきの……返事も聞かせてもらわないと、っスね」
「ま、待って……ふ、ぁ」
熱を帯びる吐息に煽られて、自然と密度を増すキスのリップ音だけが、部屋を満たしていく。
わずかに反る背中に手を滑りこませると、黄瀬は音もなくファスナーを下ろした。