第45章 ルージュ
あらわになった肩を愛撫する唇に「じゃ、答えをドーゾ」とふたたび問われる。
どうやら、黄瀬にひく気はないようだ。
「ど、どうしても言わなきゃ駄目……ですか?」
「オレ、結のことが何よりも大事だし、大切にしようって思ってるけどさ」
「……っ」
制服の上着をするりと脱いで、ネクタイを緩める仕草に、何度溺れたら気がすむのだろう。
「フソクの事態ってことも考えなきゃいけないんだって、あらためて思ったんスよ」
「……不測の事態、って」
「理性のタガが外れる、ってこと。ワカル……よね?」
首筋をくすぐる鼻先と、肌を滑る吐息。
プレゼントされた金のネックレスの上を、焦らすように這う舌が熱い。
「ちゃんと答えないと、このままお預けっスよ」
「お預けって、私は別に……ひゃっ」
膝を割り、スカートの裾から忍び込んでくる指先が、音を奏でるように這うたびに、結は無意識に腰を浮かせた。
焦点が合わないくらいに近づいてくる額がコツンと合わさり、お互いの前髪が絡み合う。
「腰、揺れてるっスよ。ちゃんと触って欲しいなら、早く答えて」
「……意地、悪」
まぶたに落ちるキスが、優しい音を立ててゆっくりと離れていく。
「結に嫌われたら困るから、いじめんのはこれくらいにしとこっかな。てか、もうこれ以上はオレが待てそーにないから……」
「ちゃ、ちゃんと……把握、してますよ。安全日、なら」
「へ」
全くの想定外という顔をする黄瀬の、ぽっかりと開いた唇に、結はかぷりと噛みついた。
「いて」
「理性がふき飛んじゃうのは、男の人だけじゃないんですからね。でも今日は、その……駄目、デスけど」
「なん、スか。その切り返し……」
ガクリと項垂れる黄瀬の、少し伸びた髪が頬をくすぐる。
「結には勝てる気がしないっスよ、ホント」とすりよってくる頭を、結は胸に引き寄せた。
「……質問にはちゃんと答えましたよ。だから、涼太……」
先を促す言葉を言うことは叶わなかった。
お返しとばかりに噛みついてくる唇に、思考も理性も一瞬で弾けとぶ。
身体の隅々を余すところなく味わうような熱いくちづけを受け止めながら、結は蜜のようにトロける時間に身を委ねた。