第42章 ファウル
「ホントごめん……」
シャワーをカタンと壁に掛ける音をうわの空で聞きながら、優しく抱きしめてくれる腕に体重を預ける。
水音に紛れて響く、力強い胸の鼓動にそっと頬を押し当てると、結は深々と安堵の息を吐いた。
「も……あんな事、しないで」
「ウン。約束する……」
「どこにもいかないで。ずっと……そばにいて」
「もう、あんなこと絶対にしないって誓うから、嫌いになんないで。結に嫌われたら、オレ……もう生きてけないんスもん」
(私だって……)
甘えるようにすり寄ってくる黄瀬の首に腕を回しながら、彼と同じ、もしくはそれ以上の感情に支配されている自分をはっきりと自覚する。
「ごめん、なさい。嫌い、なんてウソ……。ホントは、好き……大好き」
「謝んないで、悪いのはオレなんだから。ちなみに、オレのが絶対に好きっスからね」
もし“好き”の大きさを測ることが可能なら
(私だって負けないんだから……)
負けず嫌いなんだから、と軽やかな声で笑い飛ばして欲しい。
オレのが好きっスよ、と甘い声で囁いて欲しい。
屈託なく笑う太陽のような笑顔を、一回でも多く見たいから。
コートを駆ける雄々しい姿も、子供のように泣きじゃくる背中も、トロけるようなキスも、情熱的な瞳も、全部。
「…………好き」
「オレも。結……仲直りのキス、しよ?」
冷静になれと降り注ぐシャワーに打たれながら、ふたりは冷えた身体を温めるように熱いキスを交わした。