第40章 ストーリー
「ぷ」
モゾモゾと胸に顔をうずめていた黄瀬の小さな笑い声に、結は眉を顰めた。
「何ですか、その笑い」
「いや、ガード固いなって思ってさ。そんなとこも好きなんスけど……いてっ」
ささやかな胸に装着した下着のことをやんわりと指摘されて、手の中の髪を強く引っ張る。
「馬鹿なこと考えてないで、早く寝てください。いくら明日が休みだからって」
「……ね、結。何が足りなかったんスかね」
真剣味を帯びる声に、結は一瞬唇を引き締めた後、静かに口を開いた。
「総合力、に大きな差はなかったと思います」
「じゃあ、なんで……」
「第二クォーター終了直前にスリーを決められたことが、後半の流れを向こうに渡してしまった一因……かもしれません」
「あん時は確か……リバウンドが取れなくて、外にいた奴にフリーで打たれたんだっけ」
すべては“たられば”だ。
リバウンドが取れていれば
あの時フリーにしなければ
スリーが決まっていなければ
“流れ”というものは必ず存在する。
それを掴むか逃すかは、勝敗を分ける重要なファクターだ。
「スコアの分析は得意じゃないんですけど、攻守ともリバウンドは向こうの方が若干上だったんじゃないでしょうか。リバウンドを制するものは試合を制すって言葉、知ってますよね?」
「左を制するものは世界を制する……の仲間っスよね」
「それはボクシング」とすかさず突っ込みながら、黄瀬の頭をコツンと叩く。
「へへ。そうだった」
「あとは……そうですね、やはり一番のネックは司令塔かもしれません。あの赤司さんと対等に渡りあうことのできる選手は、今の高校生の中にはいないと思います。だから……」
まだ思い出すのは辛いはずだ。
だが、乗り越えていかなければならない。
『負けを負けで終わらせない』
力強い言葉に押されるように、今思いつくことをポツポツと話す。
「後半、全体的にバテていたのも気になります。練習量をただ増やすんじゃなくて、体幹や肺活量を意識したメニューを…………って、黄瀬さん?」
腰に巻きついていた腕から、いつの間にか力は抜けていた。
くうくうと寝息を立てる恋人の頭を、結は胸に深く抱き込んだ。