第39章 セミファイナル
試合の日程が大学の前期試験と被ったため、すべての試合に臨むことは出来なかった。
『ダメっスよ。変なこと考えちゃ』
『え?』
『結、迷ってんでしょ?まさか試験を放り出すつもりじゃないよね』
心の内を見透かす金の瞳に、返す言葉はなかった。
『だって……』と俯く結の髪を、黄瀬は長い指で何度も梳いた。
『オレ達は大丈夫。絶対に最後まで勝ち進んでみせる……だから』
コクリと頷くキャプテンの力強い言葉に説得されて、遅れての現地入りを決めたことに後悔はなかった。
準々決勝で、誠凛に辛くも勝利したことを遠慮がちに報告する黄瀬の優しさに、結は電話口で静かに涙した。
そして今日、いずれも優勝候補と目されている四校の戦いが始まろうとしていた。
第一試合 陽泉 VS 桐皇
第二試合 洛山 VS 海常
準決勝を迎える体育館は、目眩がしそうなほどの熱気に包まれて、試合開始のホイッスルを今か今かと待ちわびてざわめいていた。
「わ、スゴい人」
海常は第二試合だが、もう会場入りしているはずだ。
(早く会いたい……)
今にも走り出してしまいそうな気持ちを抑えながら、結は辺りを見回した。
「あ、いた!いましたよ!センパイ、こっちです!」
その声に弾かれるように振り向いた結は、鮮やかなブルーの集団に目を細めると同時に、込み上げる熱い想いに唇を噛みしめた。
ただ、さすがに駆け寄って抱きつく訳にはいかない。
理性をかき集め、「有難うございました」と隣の氷室に頭を下げる。
だが、ここで失礼しますと背を向けた結は、「あ。待って」とひんやりする手に引き留められた。
「え」
「カバン、忘れてるよ。そんなにあわてて、可愛いね」
「す、すいません。有難うございました」
ホスト顔負けの笑みに照れ笑いを返して、荷物を受け取ろうとした結は、背後に感じる気配と、胸を高鳴らせるただひとつの香りに誘われるように、ゆっくりと振り返った。
「おつかれ、結。みんな待ってたっスよ」
ここまで勝ち上がってきた自信を漲らせて、ずらりと並ぶ海常の仲間達を従える雄々しい姿。
堰をきったように溢れ出す愛しさに支配されるまま、結はその胸に飛び込んでいた。