第39章 セミファイナル
勝つことがすべて
結果にしか意義を見いだすことをしなかった冷たい瞳を思い出す。
そんな黄瀬を少しずつ変えていったのは、海常という場所で出会った仲間達……とりわけ笠松の力が大きかったのは間違いない。
あれほどの包容力を持つ、男気溢れた熱い男性を結は他には知らない。
そんな笠松の存在を胸に、そして、歴代の先輩達の汗と涙が染み込んだ四番を背負う凛々しい後ろ姿が胸に迫る。
「勿論、努力しているのは彼だけじゃないことも知っているつもりです。でも、エースを背負い、主将としての責任感に押し潰されそうになりながら、人知れず血を吐くような努力をして、歯を食いしばってここまで来たんです」
「水原さん……」
その淡々とした声とは対照的に、力強く前を向く瞳を、氷室は静かに見守った。
「キセキなんかじゃない……人より才能に恵まれているのは確かです。でも、普通に悩んだり普通に苦しんだり、私達と同じ普通の人間なんです」
ガタンと突然訪れた電車の揺れに、結は我に返ったように目を見開いた。
「あ、すいません!なんか語ってしまって。は、恥ずかしいです。忘れてください……」
「いや、とてもいい話を聞かせてもらったよ。彼は幸せ者だね。こんなふうに理解してくれる人がそばにいてくれて……夢中になれるものが見つかって」
チラリと結の方に視線を送る氷室の瞳が意味ありげに瞬く。
「いえ、私は何も……バスケとの出会いこそが奇跡、だと思ってます。それは、氷室さんも火神さんも、バスケが好きな人すべてに言えることかもしれませんね」
頬を染めながら、まるで自分のことのように目を輝かせる結に、「楽しい人だね、水原さんって」と氷室が軽やかに笑う。
美男子の微笑みは心臓に悪い。
「ム。それ、褒め言葉だと受け取っておきます」
クスクスとこぼれる笑い声から逃げるように、結は車窓に顔を向けた。
窓の外、遠くに姿を現した体育館の屋根を指さして「ほら、あそこが会場だよ」と耳に届く氷室の声に、わずかに宿る闘志の色。
「いよいよだね。準決勝」
「はい」
ふたりで同じ一点を見つめながら、間もなく幕を開ける戦いの行方に想いを馳せる。
大きく息を吸いこむと、結は大会前に交わした黄瀬との会話を思い出していた。