第39章 セミファイナル
本人が近くにいるとも知らず、終わらない中傷や冷やかしの言葉に小さく目を伏せた時、「大丈夫?」と気遣う声に結はハッと顔をあげた。
「すいません。何でもありません」
「大変だね」
「え」
「海常の彼と付き合ってるんだよね?あんな完璧な恋人を持つと、色々と気苦労が絶えないでしょ」
白熱する女子トークから少しでも気を逸らそうと、悪戯っぽくウインクした氷室は「いいえ」と静かに響く声に耳を疑った。
「Sorry?」
不思議そうに問いかける灰色の瞳を、結は真っ直ぐに見上げた。
「あの人は、完璧なんかじゃないんです。なんでも器用にこなしてしまうせいか、楽に生きてるように見られがちですけど」
その表情には、悲しみも気負いも、迷いすらなかった。
そう、自分も最初は『キセキの世代のひとり』というフィルター越しで彼を見ていた。
明るい笑顔の下に隠された苦悩に、気付くことが出来なかったのだ。
「バスケを知って、帝光中で充実した時間を過ごしたことも勿論あったと思います。でも、海常に来た時の彼はどこか冷めた目をしていて、『仲間を信頼する。仲間に頼る』という本当の意味を知らなかったんです」
女の子の声援に笑顔で応え、ボールを自在に操り、コートを華麗に舞う自信に満ちた姿からは想像できない虚しさや渇望に気づいたのは、彼と知り合って随分経ってからだった。