第28章 マーキング
胸から鎖骨、鎖骨から首筋へと、彼がいつもしてくれるように、結は無我夢中で唇を這わせた。
「結……もっと」
差し出されるように近付いてくる黄瀬の、左耳に光るピアス。
ゆっくりと距離をつめて舌先でチロチロと揺らすと、熱い吐息とともに奏でられるテノールに胸が震える。
「……ン、は」
身体の奥がズクリと疼く。
(もっと、気持ちよくなって欲しい)
こんな感情があることに困惑しながらも、結はサラサラの金髪から覗く耳に唇を押しつけた。
「好、き」
「オレもスキ……んっ、ン」
拙い愛撫を受け入れながら、いつの間にか壁を背にしてスルスルと腰をおろした黄瀬の腕にやんわりと拘束されて。
彼に支えられるまま膝立ちになった結は、わずかに上になった目線で、欲に濡れた瞳を見下ろした。
ゆるいカーブを描く長い睫毛の下の、魅惑的な瞳に吸い込まれてしまいそうだ。
「……綺麗」
「んなの、オトコが言われても嬉しくないんスけど……ン」
眼鏡をそっと取り上げて、瞼に降ってくる唇に黄瀬は口を噤んで目を閉じた。
「ハッ……、ん」
筋の通った鼻梁に、自分の鼻先を擦りつける行為は、ようやく懐きはじめた猫が自分のテリトリーを刻むように甘く。
「ン、ぁ……結、なんかエロ」
至近距離で動く黄瀬の薄くてカタチのいい唇に、結はそっとキスを落とした。
「……涼太」
「結、ん」
「りょ、う……ン」
お互いの熱を交わす中、強く押しつけられた腰から伝わる欲情の証に、結はうすく目を開けた。
同じように見上げてくる瞳の色に、呼吸が止まる。
「どうしよう……嬉しすぎて勃っちゃった」
ボッと燃え上がる頬をなぞる指に、背筋が歓喜で震える。
「ねぇ、結もオレが欲しい?」
「ズルい、です……今そんなこと聞くなんて」
「この後、どっかふたりになれるとこ行く?ラブホ、連れてってもいい?」
「え」
「欲しい」
唇をペロリと舐めるケモノに、こうして何度捕獲されただろう。
「ノーなら今、ここで抱くよ」
「ここは……ヤダ」
まるでゾーンに入ったかのように光る金の瞳に射貫かれて、結はその首に縋りついた。