第28章 マーキング
「レンで~す。リョータ君にはいつもお世話になってま~す」
「桃井さつきです。はじめまして」
「は、はじめまして。水原結です」と頭を下げるおさない顔に、レンの黒い瞳が丸くなる。
「おお。こりゃまた予想外」
「何してんスか、こんなとこで」
興味津々という顔の色男の隣で、めずらしく不愉快さをあらわにする黄瀬に気づき、桃井は申し訳なさそうにピンクの髪を揺らした。
「ごめんね、きーちゃん。ちょっと色々と事情があって」
「桃っちは謝んなくてもいいんスよ。これ、レンさんの仕業っしょ?」
俺は何も〜とシラを切る先輩モデルに背を向けると、黄瀬は桃井の隣で固まっている結の腕を取った。
「いくらレンさんでも、こんなコトしたら次は許さないっスよ」
そんな捨て台詞に、レンは口の端をわずかに歪め、桃井は可愛い唇の隙間から溜め息をこぼした。
「結、行くよ」
「え……ちょ、ちょっと黄瀬さん!すみません!し、失礼します!」
頭を下げる結にヒラヒラと手を振りながら「あ~ぁ、大丈夫かな」とつぶやく桃井の声に、レンは愉快そうに肩を揺らした。
「アレ?お仕置きされちゃう系?」
「違いますよ。どちらかというと強いのは──いえ、そんなコトよりも、叶蓮二さん……ですよね?今吉さんを動かすなんて、一体どんな弱味を握ってるんですか?」
「人聞き悪いこと言わないでくれる?桃井さつきサン。今吉クンは大学のカワイイ後輩でね」
それにしてもキミ、可愛いね〜と細められる瞳から桃井は油断なく距離をとった。
「きーちゃんは知らないみたいですね。貴方が……」
「おっと、それは内緒ね。俺はただ、約束を守ってくれないリョータ君に痺れを切らしただけなんだからさ」
「約束?」
「そ。オトコ同士の約束」
小さくなる背中を見送りながら、蓮二は初めて黄瀬涼太と会った日を思い出して不敵に笑った。
読者モデルとして人気急上昇中の中学生は、髪を金に染めた生意気そうな……いや、実際に生意気なオトコだった。
一見明るく振る舞う彼の退屈そうな瞳に、宿りはじめた炎が激しさを増したのはいつからだろう。
「いい顔しやがって。こりゃ、今年は期待出来るンじゃね?」
そこにはただ、後輩の姿を嬉しそうに見守る優しい瞳があった。