第28章 マーキング
シャッターの音とフラッシュの光。
背中を合わせ、カメラマンに要求される前に次々とポーズを決めるふたりの華やかな姿に、周囲から感嘆の溜め息がもれるのはいつものこと。
黄瀬は色々な表情を瞬時に作りながら、隣のオトコをチラリと覗きみた。
(このヒトの横だと、オレ……ガキっぽく見えんだろうな)
「リョータ君。それ似合ってるね〜」
「どーもっス」
モデル黄瀬涼太の今日の装いは、初夏をイメージした淡い水色の半袖のオーガニックシャツに、白のスキニーパンツ。
ルーズに巻かれたネクタイはただの飾りのはずなのに、モデルの手にかかればそれは色気を持つアイテムに変身するから不思議だ。
「レンさん、さわやかスマイルくださ〜い」
「え、オレそんなキャラだっけ?」
スタジオにおこる小さな笑い。
たった一言で現場にいいムードをもたらすセンスは、天性の才能か。
そんなレンは、同じ白でもラフなパンツを腰で履き、身体にフィットする白のシンプルなTシャツは、胸に揺れる革のアクセサリーよりもセクシーさを際立たせていた。
片方の肩にさりげなく掛けたシャツは、しなやかな黒のシルク。
だが、目にも鮮やかな朱色の革靴よりも、その顔にかかる少し長めの黒髪が、彼のフェロモンをより増大させているのは明らかだった。
「正直、驚いてンだよ」
「は?」
ネクタイをクイっと引っ張られて、間近で囁く低声は悔しいくらいのイケメンボイス。
「お前ならラブホ入んのなんか朝飯前だろ?」
「ぶはっ!」
いいねぇ~そのまま自然な感じで会話しててよ、と何も知らないカメラマンに、黄瀬は苦笑いを返した。
「ハ、ハハ……」
「それをわざわざ電話してくるなんてさ。しかも意外と長続きしてるときちゃ、どんなコか気になるじゃん?」
彼女とセックスする方法。
実家暮らしのふたりにとって、確かにラブホテルほどお手軽な場所はないのかもしれない。
人気モデルだろうがバスケ界を騒がせている天才だろうが、黄瀬は普通の高校生。
チャンスさえあればいつだって彼女を抱きたい──それが本音だ。
(ラブホ……ね。それが出来れば苦労しないんスけど)
ただ、彼女にああいう場所は似合わない気がする。
黄瀬は、我慢の限界に達したあの日、レンに電話したことを思い出してひっそりと笑った。