第56章 縛られた過去
彼が亡くなったのを知り
病室で泣き続けていた私に
ハッキリと言った時の
冷たい表情の彼女を
私はいまだに忘れてはいない
私は何を言われるのか
怖かった
本当に怖くて
彼女の顔を見る事が出来なかった
そんな私に
彼女は静かに言った
「・・・私、今度、結婚するの」
彼女の突然の言葉に私は驚いた
「そ、そうなんだ・・・」
彼女は彼のお墓を見ながら
何かを思っているかの表情で
話し続けていた
「彼の事は忘れらないけど・・・・
でも、いつまでも縛られてられないから・・・」
その言葉に私は何も言えなくなって
私はまた俯いた
彼女の視線が私の指に止まり
「いつも
貴女は私の幸せの前にいるんだね・・・」
そう静かに言ったのだ
「・・・・・」
私は何も言い返す事が出来ない
そんな私を見て彼女は少しだけ笑って
「私、言ってなかったけど
彼に告白したんだ・・・・」
私は彼女を見た
私の知らなかった過去に驚いて
「ハッキリ断られた・・・・
俺には好きな人がおるからって
そしたら、貴女に告白したんだ」
その言葉に
彼女の気持ちを思うと
私の胸が詰まって苦しくなっていた
「いつも貴女が前にいた幸せそうに
でも、今度は私が
貴方の前に行くから・・・」
彼女はそう告げると
静かに私と彼のお墓から去って行った
私は彼女の背中を無言で見送っていた
私の胸は色んな事が複雑に絡み合い
どうする事も出来なくなり
幸せな未来を
描けなくなってしまったのだ