第80章 再生の道へ
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「婦長の最後の笑顔、オレ初めて見たさー」
「僕もです」
「そう?私は見たことあるわ。時々」
「ええ、私も。婦長さん、普段は厳しいけど根はとても優しい人だと思うの」
「…婦長のその優しさって、女子限定なんじゃねーの?もしかして」
「…僕もそんな気がします…」
「そんなことないぞ?婦長は皆平等に優しさを向けてる」
「そりゃマリにはわかるかもしんねぇけどさぁ…オレらには難解さ、婦長の優しさは」
「それ、同感です」
婦長に見送られ医療病棟を後にした南は、雑談を交えるエクソシスト組一同と自室へと向かった。
律儀にアレンとの約束を守るリナリーに、その手を引いて貰いながら。
(本当子供扱いされてる気分…)
同じ科学班の誰かに見られようものなら恥ずかしいが、生憎この時間帯は科学班は研究室以外にはいない。
見えてきた自室のドアにほっとしながら、同時にその側に立つ高い背丈を見つけた。
「あれ…神田?」
南の部屋のドアのすぐ横。
壁に背中を預けて腕組みをしたまま、ぴくりとも動かず静かに佇んでいたのは長い黒髪の印象残る顔。
神田だった。
「あ。来ましたよ神田先輩っ」
其処へひょこっと間に顔を覗かせたのは、満面の笑みをそばかすの乗った顔に浮かべたチャオジー。
「神田にチャオジー?どうしたの」
「南さんの退院が今日だって先輩から聞いて、ついて来たんス。退院おめでとうございますっス!」
「偶々だ。早朝トレーニングの帰り道に通りかかって思い出した」
「へー…」
「ふーん…」
「ほー…」
「んだよその顔。うぜぇ」
にこにこと体全体で喜び祝うチャオジーとは正反対に、表情一つ変えずに淡々と冷たく言い切る神田。
そこへ白々しく目を向けるアレンとリナリーとラビの目に、ぴきりと彼の額に青筋が浮かぶ。
「ま、まぁまぁ。それでも嬉しいよ。顔見に来てくれたの?ありがとう」
「…六幻の為だ。お前の為じゃない」
「うん。わかってる」
騒動となる前にと、間に入った南が笑顔で神田を宥める。
すると額の青筋は消えたものの、未だに素っ気ない態度のまま。
それでも神田にすれば充分な行為だと、南は頬を緩めた。