第80章 再生の道へ
「…なんですか?」
リーバーの表情が気にかかり、ついもう一度尋ねていた。
うーん、と小さな声で呟きながら、ぽりぽりと手持ち無沙汰に再び頭を掻くリーバーは、相変わらずのぎこちない笑み。
「………」
「………」
沈黙ができる。
言いたくないことなら、無理に言わなくてもいい。
そう普段なら咄嗟に出ていた気遣いの言葉も、今の南の口から出てくることはなかった。
知りたい。
ぎこちない表情の下にある、彼の本当の表情を。
そう思ったから。
「……聞くと女々しいぞ」
「…なんなんですか?」
もう一度尋ねる。
今度はゆっくりと。
お互いに散らかった書類に埋もれて、向かい合ったまま。
やがてリーバーは頭を掻いていた手を首筋にかけると、一呼吸整えるように吐息を漏らした。
「それは故人の印なんだ」
予想もしなかった単語を耳に、一瞬南は息を止めた。
〝故人〟
その単語を耳にするには、色々あり過ぎた。
その色々と起こった悲劇から、月日はそう経っていなかったから。
「団員全員分じゃない。科学班で亡くなった仲間達の分だけ、そこに印してるんだ。…女々しいだろ?」
「…なんで…そんなことを…?」
「……忘れたくないからだろうなぁ」
グレーの薄い澄んだ瞳が、製図台の脚立に向く。
幾つも無数に刻まれた印は、決して少ない数ではない。
「教団で亡くなった者の情報はどこにも残せないだろ?遺体だって全て残らず塵にされる。…記録がなくたって、墓の一つも作ってやれなくたって、俺の中に見送ったあいつらの人生は記憶してる。………でも人間ってのは、都合の良い生き物だからな」
印を見ていたリーバーの目が、再び南へと戻る。
くしゃりと、苦々しい笑みを浮かべて。
「目に見えないもんだと、そのうちに新しいもんに上書きされて、色々と薄れていっちまうんだよ」
それはまるで自嘲にも見える苦い笑みだった。