第80章 再生の道へ
「砂糖とミルクは?」
「大丈夫です。ストレートのままで───」
背中を向けたまま尋ねてくるリーバーに、手間を取らせまいと受け答えしていた時。
製図台の周りに高く積み上がっていた書類の上で、何かがカサリと蠢いた。
(ん?)
物珍しげに見渡していた南の目はしかとそれを捉えていたらしく、迷わず動きを止める。
何か黒いものが動いたような、そんな気配。
「…?」
じっと目を凝らしていると、書類の上でカサコソと動く影。
細かな動きに嫌な予感が一瞬脳裏を掠める。
まさか、汚い科学班の職場でも時々出没していた、G的なものではなかろうか。
(ま…まさか、)
そんなものが高い書類の上から滑空なんてしようものなら、悲鳴を上げるどころではない。
トラウマにさえなりそうだと、南は思わずソファから腰を上げていた。
覚束無い足取りで、数歩後ろに下がる。
と、その時。
書類の上にいた黒い影が、素早い動きで飛び出した。
「っ!?きゃ───…あ?」
思わず悲鳴が上がる。
が。
「…は?」
飛び出してきた黒い影は一直線に滑空してくるのではなく、宙をふよふよと浮いていた。
ぱたぱたとどこか聞き慣れた羽音が鳴る。
「……ゴーレム?」
書類の上でぱたぱたと宙を飛んでいたのは、一匹の黒い蝙蝠型通信ゴーレムだった。