第80章 再生の道へ
「は…班長、この書類って…」
「ああ。何かと持ち帰り仕事してたらな。いつの間にか溜まっちまって」
「………」
参った、と然程気にした様子なく苦笑するリーバーに、これは問題だと南は微かに眉を寄せた。
職場にさえ連れて行かなければ彼を休ませられるかと思っていたが、どうやらそれは間違いだったらしい。
職場であっても自室であっても、これでは常に仕事に追われてしまう。
「…急ぎの仕事なんですか?これ」
「いや、割とそうじゃないものが多いかな…だからゆっくり寝る前に処理してる感じか」
「………」
(それをサービス残業って言うんですよ…!)
そう声を大にして言いたくなるのをぐっと堪えて、部屋の中に進む。
「適当に座っててくれ。紅茶、ホットでいいか」
「あ、はい…すみません」
「怪我人は甘えてろ、気にするな」
大人しくソファに腰を下ろして、背を向けたリーバーの背中を見つめる。
そんな彼の姿も書類の山で見え難い程の視界の狭さに、南はまたも眉間に力が入りそうになった。
(…急ぎの仕事じゃないなら…これ片付けたいな…)
職場では掃除をしろとリナリーに口酸っぱく言われても、時間がないからとなにかと甘えて放っていたのに。
リーバーを給料にもならない残業に追いやっている書類の山が恨めしくなる。
許されるならば、全て片付けてしまいたいとさえ思った。
化学式・数学を専門とするリーバーが職場でよく使っている、製図台に似た斜め掛けの机。
それと同じものが部屋の隅に置いてあり、その周りにある書類の山は更に高く積み上がっている。
こんな部屋で果たしてリーバーは休めているのか。
考えれば考える程、南の不安は募った。
(ご飯はまともに食べてるのかな…睡眠は、あまり取ってなさそうだけど…お風呂は入ってる?)
気になる。
聞きたい。
そう思えば自然と開く口。
しかし音を発する手前で、南はそっと口を閉じた。
(って、私はただの部下なのに。偉そうにそんなこと…)
言えやしない。