第80章 再生の道へ
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「………」
教団の細い通路の一角。
そこで松葉杖を付いたまま、そういえば、と。
南は目の前にある極々普通のドアを見つめて、黙り込んでいた。
(…初めてだ。リーバー班長の部屋に、入るの)
俺の部屋に来るか、とリーバーに誘われた時は最初こそ驚いてしまったものの、そこに他意がないことはすぐに理解できた。
寧ろ怪我人である自分の為に、気遣って食堂より近い自室を選んでくれたのだろう。
元々リーバーの時間を自分に下さいと頼み込んだ身。
断る選択肢など取れず、気付けば南はリーバーの自室前まで来ていた。
職場では毎日顔を合わせているが、プライベートな空間に足を踏み入れたことは一度もない。
ほとんど寝泊りが多い科学班の職場では、半ば仕事とプライベートは混合しているようなものだが。
それでも上司の部屋となれば緊張もするもので。
「………」
「…言っとくが、汚いからな」
「え?」
「部屋」
穴が開きそうな程にじーっとドアを見続ける南に、リーバーは苦笑混じりに砕けた話題を振った。
あまりの南の構え具合に、こちらまで緊張しそうだと。
それでも彼女の性格は知っている。
いきなり上司の部屋に誘われて緊張するなという方が無理かと、リーバーは早々目の前のドアを開けることにした。
「そ…そんなこと思ってませんよっ」
「そうか、じゃあ安心だ。ほら入れ」
「はい、お邪魔しま───」
促されるままに足を踏み込む。
松葉杖をコツリと付いて踏み込んだ部屋に、南は思わず目を剥いた。
(せ…狭い…!)
目の前に広がっていたのは、とてつもなく狭い空間だった。
否。
広さで言えば、恐らく南の部屋よりは広い。
しかし余りの物の多さに、窮屈に見えてしまうのだろう。
高々と部屋中に聳え立っているのは書類の山々。
ラビとブックマンの部屋のような散乱具合ではないが、机の上や引き出し、棚など目につく家具全てに山のように積まれている、全てが書類の束。
これでは科学班の職場での光景と、そう変わらない。
流石科学班第一班班長であり仕事の鬼である、彼の部屋と言うべきか。