第80章 再生の道へ
俯いていた顔を、恐る恐る上げる。
そんなアレンの目に映ったのは、優しく笑う南の顔。
照れ臭そうに笑みを返せば、更に彼女の笑みは深まった。
ふわふわと二人の間に包まれる優しい空気。
「チッ」
それを壊したのは、一つの舌打ちだった。
「だからそういう胸糞悪い空気飛ばしてくるんじゃねぇよ、余所でやれ余所で!」
「わあっ神田暴れないでってば!」
見ればジョニーに採寸されながら、苛立ちオーラ全開に睨んでくる神田が。
「胸糞悪いって…それ自分だけでしょう。周りはなんとも思ってませんよ。南さんに失礼なこと言わないで下さい」
「やー…オレは気になるかな…色々…」
「気にしないで下さいね、南さん。神田の言うことなんて」
「う、うん」
「シカトかよ」
やれやれと溜息混じりにアレンが神田にジト目を向ければ、恐る恐る挙手するのはラビ。
しかし悲しきかな、アレンの中ではラビは数に入っていないらしい。
(…そういえば、)
ふと神田の乱入で南が思い出したこと。
彼もまたラビ同様、イノセンスのない状態でレベル4と激闘を交えたと聞いた。
まじまじとその体を見れば、アレンとの喧嘩で怪我を負っているものの、その他の傷は見当たらない。
あのレベル4との戦いで無傷であったはずがないのに。
タップの元へとラビに連れられた時に、一瞬垣間見た神田の姿。
遠目だったけれど、確かに怪我を負っていたように思う。
「…んだよ」
南の視線を感じ取った神田が、眉を寄せて反応を示す。
「あ、ううんっ」
慌てて首を横に振れば、あっという間にその鋭い視線は興味なく外された。
ここで襲撃事件のことで礼を言っても、アレンのようには応えてくれないだろう。
下手すれば嫌な顔をされる可能性も高い。
なんとなく予想はできたから、その言葉は神田に向けずに胸の内に仕舞うことにした。
「……神田」
「だから、なんだ」
ただ。
もう一度呼べば、鬱陶しそうに向けられる目。
嫌な顔をしてもちゃんと応えてくれる。
その目をしかと見返して、南は今一度口を開いた。