第80章 再生の道へ
「…守るなんて大袈裟だよ。AKUMAに小言言った程度だし」
「小言?」
「うん」
苦笑混じりにラビを見上げて返す。
そう。
少しでも時間稼ぎになればと、AKUMAの足を止めるような文句を口にしただけだ。
偶々そのAKUMAが煽りに乗り易い性格だったから、上手く時間を稼げただけ。
大した言葉も吐いていない。
ただ自分の正直な気持ちを口にした。
そんな南の口が気に入らないと、AKUMAは爪を立てて唇の薄い皮膚を裂いた。
(…そういえば、)
ふと南の頭に蘇る。
あの時、AKUMAに口を利けなくしてやると脅されて、唇を裂かれかけた。
ああもう駄目だと諦めた。
死にはしないだろうけれど、もうまともに話せなくなるんだと。
もっと言いたいことはあったのに。
(───何を?)
もっと呼びたい名前があったのに。
(───誰を?)
「………」
あの時、瀕死の体で朦朧と絶望しながら微かに望んだもの。
望んだ人。
あれは。
あの人は。
「………」
「…南?」
急に静かになる南に、不思議そうにラビが首を傾げる。
「どしたんさ?」
顔色を伺おうと、再び身を屈み掛けたその時。
「急に黙ぶッ!?!!」
「!?」
ズドンッ!と一直線に飛んできた何かがラビの顔面に直撃した。
あまりの衝撃に後ろにグラついた体が、南から離れて倒れ込む。
「ラ、ラビっ!?何…っ…あ。」
一体何が起こったのか。
見れば倒れたラビの横に転がっているのは、見たことのある竹刀。
「だからそういうことは余所でやれっつってんだろーが」
苛立つ低い声。
慌てて振り返れば、眉間にくっきりと皺を寄せた、先程砂地の修練場で鬼と化していた人物が立っていた。
「全く、油断も隙もない。怪我人の女性にセクハラするなんて」
その隣には同じく眉間に皺を寄せつつ、口元は弧を描いて黒い笑みを浮かべている鬼の一人。
神田とアレン。