第80章 再生の道へ
南は特別小さな体をしている訳ではないが、高身長のラビから見れば充分に小柄な体。
その小さな体をすっぽり抱きしめていれば、同じにその華奢な存在を思い知る。
どんなに自分より大きな器や心を持っていると感じていても、彼女はこんなにちっぽけな人間なのだ。
今回の襲撃事件で命を落とさなかったのが奇跡だと思える程。
そう、それはラビにとって奇跡のようなものだった。
入院中にアレンから聞いた、第五研究所での出来事。
それは正に地獄のような出来事だった。
大量のAKUMAによって手傷を負わされた研究員達。
生かさず殺さず。
それは南も例外ではなく、腹部に傷を負った状態で守化縷というタップと同じ人形に変えさせられようとしていた。
なんとかアレンの手で防いだものの、その後ノアの手で一度気を失ったアレン。
その間のことは記憶が曖昧だが、南が必死に名を呼ぶ声は聞こえていたとか。
次にアレンが意識を覚醒させた時、南はAKUMAの腕に捕われていた。
そして今のような酷い深手を負った体へと変わっていたという。
憶測でしかないが、きっと彼女も彼女なりに抗ったのだろう。
自分の立場を弁えてはいるが、命が危険に曝されれば無謀でも生きようと奮闘する。
南はそういう人間だ。
だから神田の口からノアに捕まった時の話を聞いた時も、心底驚きはしたがなんとなく納得してしまった。
強いと思う。
彼女の心は、自分なんかよりずっとずっと強い。
そしてその強さの下には人並みの弱さがちゃんとある。
敵わないノアという敵に対する恐怖。
仲間を失うことへの悲しみ。
幽霊やオカルトにだって身を竦ませる怖がりなのに。
「………」
「…ラビ?」
少しだけ南を抱く腕に力が入る。
身を屈ませて、その細い肩に顔を埋めた。
怪我には響かぬよう注意を払いながら、それでも逃がすまいとするかのように。
なんとも表現のできない感情だった。
人並みの弱さを持ち、それでも強くいようとする彼女を思えば思う程、募る想い。
なんだか切なくて、だけど愛おしいもの。