第80章 再生の道へ
「人肌っていうか生肌っていうか。そういう体温?に触れると落ち着くっていうか…そんな感じ?」
「…なんか変態っぽいそれ」
「酷ぇ言い草」
まぁ確かにその通りなのだけれど。
苦笑混じりに応えれば、照れの残る顔で僅かに見上げていた南の視線が下がる。
そうして腕の中に収まっていた体は、ふと微かな抵抗を止めた。
ぽすん、と軽く胸に当てられたのは南の額。
俯き加減に額を押し当てて、自由な利き手が軽くラビの服の裾を握る。
「……なんとなく、わかるけど」
「へ?」
「…落ち着く、感じ」
(ラビの腕の中は、怖くないんだよね…不思議と)
同じに背丈は高く男性ではあるけれど、その腕の中はリーバーとはまた違う。
リーバーはその弱さを知って、自分と同じであることに心が安らいだ。
しかしラビは男性である以前にエクソシストであり、その腕も力も遥かに自分や一般男性より上。
有無言わさぬ力で押さえ付けられ、唇を奪われたことだってある。
それこそ組み敷かれ恐怖を植え付けられた、あのノアであるティキと同じことを。
なのに不思議と、今ではこんなに安心できる腕の中となってしまった。
今まで知らなかったラビの心を知ったからなのか。
本音でその想いを伝えてきてくれたからなのか。
元より彼の屈託ない無邪気な性格があってのことか。
それだけの密な2年間を彼と過ごしてきたからだろうか。
考えても答えは出ない。
けれど恐らく、
("ラビ"だから、だろうなぁ…)
そのどれもが理由の一つなのだろう。
「……南?」
「んー?」
「や…ウン」
「何?」
「…なんでもね」
(そんなふうに無防備に身を預けられると、こっちが戸惑うって言うか…)
胸に額を寄せて身を預けてくる南に、変に体は硬直してしまった。
熱くなる顔の火照りを落ち着けようと、ラビは気付かれぬように小さく深呼吸を繰り返す。
「………」
心臓が、煩い。