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科学班の恋【D.Gray-man】

第82章 誰が為に鐘は鳴る



✣ ✣ ✣ ✣



高い天井に、聳え立つ周りの壁には三角型の幾何学模様。
どこか亜細亜を思わせるような伝統ある天幕が幾枚も下がる大きな広間の中心に、それは在った。
数mm程しかない薄い結晶体のような方舟の入口。
その前に立つのは、金髪の低身長な男。



「…本当に行かれるのですか?バク様」

「なんだ、お前も止めるのかウォン。散々ハイハイと調子の良い返事を返していただろう」



此処はヴァチカンが仕切る軍事機関の一つ、アジア支部。
黒の教団本部へと繋がっている方舟の前で意を決していたのは、アジア支部責任者であるバク・チャンだった。
常に彼の傍に適度な距離を保ち待機する補佐ウォンが、言い難そうな顔でバクを呼ぶ。



「いえ、止めるおつもりは…ただ、そのぅ…」

「何かあるなら言え!お前もフォーみたく僕を馬鹿にするのか!」

「馬鹿になどと!ただ、」



ふさふさの白髪の眉毛に隠されたウォンの目が、ちらりと背後を見つめた。



「彼らも連れて行くので?」

「あ、なんスかウォンさん。その反応!」

「私達は引っ越しの手伝いに行くだけですよ!」

「…一応、そのつもりです」

「シィフ!一応ってなんだ一応って!」

「変なこと言わないでよ!連れてって貰えないでしょ!?」


「…何処ぞで聞き付けたかわからんが、勝手について来たのだ。僕は知らん」



バクの後ろに金魚の糞如く引っ付いているのは、アジア支部科学班見習いトリオ、李桂、蝋花、シィフである。
ぼそりと呟くシィフ以外は、疚しい思いが見え隠れしている。
大方バク同様、教団にいる想い人に会いたいが為の魂胆なのだろう。



「そー気にしなさんなよ。俺がこいつらの保護者役務めるんで」



そんなトリオの後ろでのんびりと付け加えるのは、彼らの先輩である科学班のジジ・ルゥジュンだった。
にへらと笑う無精髭の男に、バクの顔が尚更渋くなる。

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