第82章 誰が為に鐘は鳴る
「ラボまではオレが連れてってやっから、南はしっかりクロちゃんの血を守って───」
ボゥ…ッ!
防護壁となっていた炎が、突如として燃え上がった。
否、それは燃え上がったのではなく消し飛ばされたのだ。
自身のイノセンスである炎が千切られる感覚に、凝視したラビが見たものは。
「こんな生っちょろい火で壁なんて作れるかよォ!」
「げぇ…!またあの元帥かよ!」
負傷した体でありながらも、しかと地に足を付け立つソカロの姿だった。
「オレが落っことしたから此処にいても可笑しくねぇけどさ…ッ時と場合を考えろよな!」
「ら、ラビ…」
背後に隠した南の手が、縋るようにラビの服の裾を握る。
守るべき存在を背に感じながら、ラビは目の前の敵を睨み付けた。
「…南、聞け」
「!」
「幸い廊下への出入口にゾンビはいねぇみたいさ。オレが合図したら一直線に其処まで駆け抜けろ」
「ラビは…っ?まさか囮になるとか言う気じゃ…ッ」
「易々とオレの体をやる気はねぇさ。ちゃんと隙を見て逃げる。だから振り返るなよ」
「そんな…っ」
「迷ってる暇はねぇさ!行け!」
叫ぶと同時に地を蹴り上げる。
ソカロの頭上へ跳んだラビは、大きく鉄槌を振り被った。
「満、満、満、満、満」
言霊の数だけ、ぐんぐんと巨大化していく鉄槌。
中庭全てを覆わんとする程巨大な影を落として、鉄槌は嵐の雨を阻んだ。
「(もうほとんどガス欠状態だけど、)ンなこと言ってられねーしな…!」
体力は広場でのソカロとの戦闘で、ほぼ底を尽いていた。
それでも無理矢理に放った防護壁の技は、なけなしのラビの体力を削り取った。
恐らくイノセンスを使った技は、これが最後だろう。
しかし技がソカロに効くか効かないかは問題ではない。
リーバーがウイルスに蝕まれた今、唯一の希望である南が生存できるか否か。
それさえ守りきれれば、それでよかった。