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科学班の恋【D.Gray-man】

第82章 誰が為に鐘は鳴る



「どっどどっどうしようラビ…!?」

「どうするったってオレじゃどうにも…!」

「っ…南…」

「! リーバー班長!?」

「これ、を…」

「えっ?」



苦し紛れの声で、しかし確かにリーバーは人の言葉を話した。
となると意識は彼のものであるらしい。
慌てて傍に寄る南に、覚束ない手付きで懐から出した物を押し付ける。
透明なケースに入っていたのは、血の付着した鏃のように加工されたメスの切っ先。
簡易クロスボウとしてリーバーが使用していた矢先だった。



「クロウリ…の、血だ…これで、ワクチン、を…」

「えっえ、あの、で、でも私じゃ…こんな少量の血でワクチンは…」

「大丈夫、だ…お前なら、やれる…」

「そんな…ッ無理です!」



おろおろと受け取ったケースを両手に、首を横に振り続ける南。
今にも泣き出しそうな顔を前にして、血管の浮き上がる苦しそうな顔で、それでもリーバーは口元を緩めた。



「無理じゃない。お前は、もう昔のお前じゃ、ないだろ」



上から重なる、大きなリーバーの掌。



「あの時から、沢山…努力、してきただろ」

「あ、あの時…?」

「傍で見てきたから、知ってる」



入団したばかりの頃は、在庫の予備ゴーレムにさえ振り回されていた。
つい最近のことのように思い出せる、真新しい白衣に身を包んでいた頃の南が懐かしい。
あの頃に比べ随分と濃くなった目の下の隈も、ペンだこの増えた指も、廃れた白衣も、それだけ地道に教団で進んで来たからこそ。
そんな今の南の姿が、リーバーは誇らしくも思えた。



「南だから、任せられる」



迷い無きリーバーの声に、はっと南は息を呑んだ。
ぎゅっと、ケースを強く握り締める。



「ぅ、うう…ぁ、あああ!」

「っリーバー班長…!」

「危ねぇ!離れろ南!」

「でもッ班長が…!」

「はんちょの言葉を聞いただろ!情で目的を見失うな!」



強いラビの腕に引かれて、リーバーから離される。
喝を入れるラビの声に、ぐっと歯を食い縛った。

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