第82章 誰が為に鐘は鳴る
何より直接体で繋がっていたリーバー自身が、実感できた。
体の内側を何かに好き勝手動かれるざわめき。
最初は気味の悪いものでしかなかったはず。
それが今では、ぽっかりと何かが欠けたような、そんな虚無感を齎してくる。
「そうか…あいつ、いったのか…」
腹部に触れようと、もう何も感じ得ない。
そのことが何故かほんの少し、寂しく思えた。
頭部だけを突き出して会話してくる亡霊は背筋が凍る光景だったが、その亡霊のお陰でここまで来られたのだ。
「最後くらい、きちんと別れを言いたかったかな…」
「…大丈夫です。リーバー班長のその優しさは、ちゃんと彼女にも伝わっていましたから」
リーバー、と呼ぶ亡霊の嗄れた声が、幾分か優しい音色をしていたことを、南は知っていた。
「そう…か…?」
少し照れ臭さの残る表情を返そうとして。
「ッ…?」
「…班長?」
リーバーの眉間に、深い皺が刻まれた。
腹部に当てていた手でぐしゃりとシャツを握る。
そのまま腹痛でも起こしたかのように蹲るリーバーに、南とラビの目色も変わった。
「班長っ!?」
「オイ!?今度はなんさはんちょ!」
「ぅ、ぐ…」
ビキ、と。
脂汗の浮かぶリーバーの額に青筋が浮き立った。
ピキピキと脈打つ血管が伸びていく様は、見覚えがある。
「ラビ…これって…」
「そ、そういや言ってたっけ…」
「そういやって!?」
「亡霊の奴が。はんちょの体はもうウイルスに蝕まれてるって」
「ぇえ…!」
ということは、つまり。
口を開閉させながら訴えてくる南に、ラビもまた青い顔で微かに頷いた。
「ウイルスを抑え込んでいた亡霊が離れたなら、はんちょはもう…」
「ま、待って。その先は言わないでラビ…ッ」
「ゾンビ化しちまうさッ!」
「いやー!」
「うぐぁああ!」
「「!?」」
突如絶叫のような咆哮を上げるリーバーに、思わず涙目で互いに抱き着く南とラビ。
折角命を繋いだというのに、これでは再び絶体絶命である。