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科学班の恋【D.Gray-man】

第82章 誰が為に鐘は鳴る



✣ ✣ ✣ ✣



手を伸ばす。
あの声を離したくなくて。
求めるように縋った掌は、強い手に捕まえられた。



「南…!」



声が呼ぶ。
少しだけ低い、優しい声ではない。
哀しみを含んだ、魂の嘆きでもない。



「しっかりしろ…!戻って来い!」



力強く呼びかけてくる声。
深い谷底へと落ちた身を、引き上げてくれるような。
弱々しくもその手を握り返せば、声が息を呑んだ。

重い瞼を開く。
焦点の合わない目の前の景色が、ぼんやりと形作られていく。

最初に見えたのは、赤。



「…南?」



彼の赤毛もそうだが、その後ろに燃え上がる炎が見えた。
炎の蛇が幾重もとぐろを巻き、嵐から守るように身を横たえている。
前にも見たことがあるような景色だった。

憶えている。
廃れた古い村で、霊魂の痛々しい叫びに引きずり込まれた時。
あの時も引き戻してくれた声は、一心に向いていた。
透き通るような翡翠色の隻眼。
そこに映る自身の顔を見返して、こほりと微かに咳き込みながら、それでも南は口角を緩めた。



「…ガラス玉」

「…へ…?」

「じゃ、ないね」



言葉の意味が掴めず、瞬く翡翠を見つめて。



「ラビの眼は、ガラス玉じゃないよ」



もう一度微笑みかければ、くしゃりと目の前の顔が歪んだ。



「なんさその第一声…意味わかんね…」



弱々しく呟きながらも、腕は強く南を抱きしめてくる。



「なんか…前も、こんなことあった気がする」

「そーさ…南はいっつもオレに心配かけ過ぎ。マジで寿命縮まる」

「ごめん、ね」



強く掻き抱くラビの背に腕を回して、彼の肩越しの炎の壁を見上げながら南は申し訳なさそうに笑った。



「でもオレは、南のヒーローだかんな。南がピンチの時には助けに行く役目だから」

「…うん」

「もう簡単に諦めたりしねぇから。南が応えるまで、呼び続けるからな」

「うん」



力強く迷いの無い声。
留めるように引き止めてくる抱擁。

ラビのそんな姿を感じていると、泣きたくなるのは何故なのか。
答えは、わかっているような気がした。

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